Lv.4:無謀すぎた。
翌朝、勇者一行はアリアハンから西に海岸沿いをくるりと北から南へと周り、ナジミの塔が北東に見える位置にある、岬の洞窟へとたどり着いた。
海からの風か、中は外より涼しくも湿度が高く、何とも言えない気持ち悪さがある。
中は広い洞窟なのだが、単純なようで幾つもの分かれ道があり、うっかりすれば迷いそうである。そんなヘマはしないけどな。
「ねぇ、さっきもそこ通ったよ。こっちまだだから、こっち行ってみようよ」
「………そうだな」
聞こえないはずの声にしっかりツッコミを入れられ、意気消沈となりながらも、奥へと進む。
この辺りのモンスターは【おおがらす】よりも更に強い、鋭い尖った角で突進攻撃をかます一角獣。名は【いっかくうさぎ】見たままのネーミングだ。兎との違いは大きさと殺傷性が増していることぐらいか。つまり、我々には大問題な相手である。
「のあー! やられました。薬草ください。視界が真っ青です」
突進されて角での致命傷は避けたが、兎の頭部に直撃されたピエロが鮮やかに吹き飛ぶ。
「それは、お前の取れかけの鼻だ!」
貴重な薬草を使わねばならない苦行に立たされながら、それでもボケようとするピエロには、殺意が芽生える。
「くぬぬ。お宝の匂いがする」
傷付きながらも、探究心は人一倍のアキドは周囲に目を光らせながら、【いっかくうさぎ】を斬り捨てる。本当に一番逞しいよ。
「お前さん。すっかり盗賊じゃな」
鮮やかに後方から、メラを決めるゼト。魔法の節約どころでは無く、薬草を節約するには、メラを連発しなくてはいけない。氷の塊を作り出し相手のぶつけるヒャドの呪文も覚えてくれたが、消費がデカイだけでメラと大差ないので、メラだけを撃ってもらっている。
覚えたての呪文を使いたいのは、わかるが堪えてくれ。
「やだー。商人だもん!」
「可愛いのう。もう少し前に屈んでくれると、もっといいんじゃが」
呑気と言うか逞しいと言うか、もう既にボロボロだと言うのに、元気に言い合っている。
「良いけど、高いわよ」
「幾らじゃ?」
胸元の布を引っ張り和かに金銭を請求する。そして、ゼトが言い値で買おうとばかりに財布を…っておい。
「それは武器やら防具やらを買う共有の財布だろ!!」
慌ててゼトから、財布を取り上げる。いつの間に油断も隙もない。
「因みにタネも仕掛けもありません」
スったのはお前かと、ピエロの首を絞めたくなったが、薬草を使ったばかりで、同士討ちは勿体無いので我慢した。
「あれ? 勇者君、疲れてる?」
「………」
敵と対戦するより疲れている気がする。
【いっかくうさぎ】及び、同じぐらいの強さの【おおありくい】(ゆっくりな動きだが力強いしタフだ。兎に気をとられていたら、痛い目を見る)を何とか倒しつつ、奥へ向かう。
そして、左右の別れ道の突き当たりに宝箱を見つけた。
「これはっ!? 旅人の服だね。しかもちょっとカビ臭い」
見つけた宝箱を嬉々として開けるアキドだったが、広げたものをペイッとピエロに投げ渡す。
「私ですか!」
「欲しい欲しいと言ってたでしょ」
顔を顰めるもアギトの押せ押せに負けたらしい。直ぐにヤラレタのだから、文句言える立場ではないだろう。
すっかり麻痺している人には、意味がないかもしれないが、疑問に思う人はいるだろう。
『なぜ、洞窟に宝箱があるのかと』
これも諸説あるが、一番有力なのは神様からの贈り物である。神がいるのかと驚かれるかもしれないが、全世界に分布している神を信仰している教会があることが、その最たる証拠といえよう。教会の主な仕事は、治療だ。毒治療、呪い治療、そして蘇生と人々の生活に密着したものが多い。分け隔てなくしっかり寄付を迫る。
と、本題からずれたが、神に使える神父曰く、その神様が己ら冒険者を路頭に迷わせぬように、宝箱を用意し、これで生計を立てなさいと仰られたらしい。
なので、人の関わりが少ない洞窟や塔にある宝箱の中身は基本開けた人の所有物として良いとされている。
もう一つの説があるのだが、これも大富豪が云々とそれが世界規模ってどうよと言いたくなるので、これ以降は割愛する。
さて、ピエロがカビ臭い旅人の服を渋々着終えたようなので先へ行くことにする。しかし、進むにしても薬草の数が心許ない。そろそろ引き返すことも考えねば…。
「ふむ、随分雰囲気が変わったのう」
天然の洞窟に近かった場所が階段を上ると一転、人工物が顔を出した。使われている石は不明だが綺麗に磨かれ、ところどころ彫刻された壁が目につく。そして、目の前を闊歩するは見慣れぬモンスター。なんか強そう。いや、確実に強いだろう。
「逃げるぞ!!」
洞窟内でもヒーヒーなのに、鱗粉を撒きながら羽ばたく不気味な顔の蝶【じんめんちょう】や、ピョンピョンと軽快に跳ねている巨大蛙【フロッガー】何ぞ相手にできる訳がない。
やばい、気付かれた!
「ちょっと、痛い痺れる強過ぎ」
構えた銅の剣を振り回し、幻覚に近い鱗粉を振りまかれ、挙動不審となるアキド。そのアキドがうちの戦力の要である。彼女がダメなら即終了だ。
ゼトに最後の魔力を振り絞ってもらいメラを打つとともに退散。ここは我々にはまだ早過ぎた。
ハァハァゼェゼェ…。ふわふわ状態のアギトの手を引っ張り、全力ダッシュ、命辛々に町へ逃げ帰ったのであった。
勇者Lv.4、振り出しに戻る。