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竜の眠る地

DQ主達の記録

希望の光を探し求めて



 イシの村には大地の精霊がいる。
姿を見たものはいないが、日々の感謝の中にその存在を垣間見ることがある。

 幼き頃からイレは精霊がもたらす恵みに感謝するように教わって来た。
穀物が育つこと清き水が枯れずに村へ流れゆくこと、大樹が生死を司るのならこの精霊は育みをもたらしてくれている。

我ら イシの民
大地の精霊と共にあり

大地の精霊よ
イシの村に もたらす恵み
その全てに感謝せん

 イシの村の奥、神の岩の入り口にある石碑。そこに書かれている文言は幾度も読み記憶していた。
「ロウ祖父ちゃん?」
 ロウはその石碑の側で祈りを捧げるように跪いていた。
「イレか、もうなんとも無いか?」
 イレが起きたことはムウレアの女王様かカミュが知らせてくれたのであろう。
 一度、目を伏せてから嬉しそうに笑ってくれた。
イレはそれに小さく頷く。それを見てポンポンと腕のあたりを優しく叩き、また笑う。
本当に心配ばかりをかけてしまった。あの時の崩れ落ちるロウの姿が今でも目に焼き付いている。
時を戻ったとことは後悔していない。
ただ、罪悪感も一生消えることはないだろう。皆の成長を……立ち直り、前へ進む意思を潰したのだから……。
「ロウ祖父ちゃんはどうしてここに?」
「……ある調べ物をしとってな」
 神の岩を見上げるロウ。イレもつられてそちらを見る。
「幾多の地上絵が描かれておる。長年謎に包まれていた。ワシはな、この大地の精霊は大樹より作られたのではなかろかと思っておる」
 何故大樹とは別に作られたのか、それは神話の時代、聖なる竜が破れ、世界が破滅したという。
その時大樹とは別に生まれた一つのかけらが成長し、そして大地を緑豊かにする精霊となったのではないか。
幾度となく神の里へ赴き情報を整理した時、この神の岩こそ希望ではないかと言う結論に達した。
「とは言え、物言わぬ精霊にどうお伺いを立てたら良いか、悩んでおるところじゃよ」
 視線をイレに戻しまた微笑む。イレはロウの言う意味が悟れず首を傾げるしかない。
何の希望だろうかと、何かまだ不可解なことがあるのかと、まだ世界は平和になっていないと言うのだろうか。
「そう言えば、何か用があったんじゃないのか?」
 そうだった。ペルラからご飯ができたことを伝えるように言われていたのだ。
ロウに言われてそのことを思い出す。

「そうかペルラ殿には随分と世話になってまったのう」
 ロウとペルラには、イレと言う共通の愛するものがいる。
そのことでとても良い関係を持っていた。
涙ながらに語らう苦悩と感謝、家族の温もりを再び思い出せる憩いの場、苦しくもあり暖かいそんな場所である。
「………」
 ロウがしばし物思いにふけった後、顔を上げれば、イレは別の方を向いていた。
その表情にロウは声を掛けるタイミングを失った。

 イレが見ていたものは、イシの村で見かけたことがなかった時の化身の姿が見えたからである。
手を伸ばしても触ることができない存在、近寄ればフッと姿を消す幻。

「ちょっと、イレ。こんなところにいて大丈夫なんでしょうね!」
 第三者の声、その声は幼さの中に芯があるしっかりした口調。そうベロニカだ。
イレもロウもその声のした方を向き、そこに旅の仲間全員が揃っていることに驚きと笑みが溢れる。
いの一番に駆けつけつけてくれた嬉しさがこみ上げた。
「その様子だと、大丈夫そうね。心配したわ」
 優雅な足取りで素早く近づいたのはシルビアだ。そのままイレを包み込む。
「ごめんなさい」
 嫌がることなく受け入れるも擽ったさに眉が下がる。
「ホントよ。皆んなパニックになっちゃって、面白いことになってたのよ!」
 心配ないことを察して、スッと距離をとったシルビアがイレが倒れた後のあの状況を思い出し報告する。
「ちょっと、シルビアさん。そこは言わないでよ!」
「そうだぞ! ゴリアテお前だってアタフタしていただろう!」
 ベロニカとグレイグが反射的に反論する。それを見てクスリと笑うセーニャ。
彼女自身はいつ何時もマイペースである。
「まぁまぁ、心配したことは事実なんだし。でもね。イレ……そろそろちゃんと話して欲しいの」
 興奮する二人をなだめて、マルティナは切り出す。主語のないその言葉。
何を指すかわからないはずのイレが息を飲む。
真っ直ぐに見つめられるそれは全てを飲み込むように熱く鋭かった。
言葉が出ない。誤魔化すことも笑うこともできない。
「悪いな。オレら自分で調べちまった。お前がどんな覚悟でここ…この世界にいるかをな」
 カミュの言葉が全てであった。

 全てのパズルピースが埋まる感覚。キッカケは些細な違和感、そして広がる歪。
その先の平和。イレは皆が語るこの結論になった経緯を静かに聞いた。
打ち明けられなかった真実。
何も考えてなかった。救えるかもしれない命を救いたいと言う感情一つだった。
諦めたくない。

「イレ、アンタはバカだけど、あたしを、世界の人の多くを再び救ってくれたわ。もう一度お礼を言うわね。イレ、ありがとう。アンタが勇者でよかったわ」
「私からも言わせてください。危険を冒してまで、お姉さまを救ってくださりありがとうございます」
 互いの手を組みニッコリと微笑むベロニカとセーニャ。

「イレ、悲惨な出来事を回避して、デルカダールの人を多くの人を救ってくれてありがとう。そして、私の心を守ってくれてありがとう」
「それは俺からも言わせてくれ、俺の過ちは小さくなかったそれを最小限に食い止めてくれて感謝する」
 胸に手を当て力強く微笑んでくれるマルティナとグレイグ。

「多くを失った後から笑顔を取り戻すのは大変だわ。それを未然に防げたんだもの、きっとアタシの夢が叶う日は近いわ。イレちゃんありがとね」
 ウインク一つして笑うシルビア。

「マヤの体があれ以上、酷いことにならなかったし、罪悪感の塊に成らず、元気なのはイレのおかげだ。俺の心も軽くしてくれてサンキューな」
 腕を組んだままだが、少し照れ隠しのように視線を外しつつ笑うカミュ。

「イレ、ワシはこんなにも立派に育った孫を持てて幸せじゃよ」
 何度でも何度でも笑ってくれるロウ。

 溢れる涙が止まらない。拭いても拭いても流れ出る。ずっとずっと我慢してきた。
自分は勇者だから、泣き言は言えない。みっともない姿は見せられない。
人は恨んじゃいけない。諦めてもいけない。
いつのまにか憧れは使命となり、力は成すべき役割となり、志しは責務となっていた。
溢れ出る懺悔、心の奥で叫んでいた唯一の後悔。
仲間が全て知った今、奥底に留めておくことができない罪悪感。
今この時が巻き戻らない世界、その意味はただ一つ。

「ダメなんだ。ボクは自分の我儘で、セニカを時の渦に落としてしまったんだ」

 奪われることも移すこともできない勇者の力を安易に譲ってしまったばかりに、時渡りを失敗したセニカは輪廻の外側へ追いやってしまった。

「大丈夫じゃイレ。可能性はゼロではない」
「でも、この世界が、この世界であることがセニカを救えていない証拠になるじゃないか!」
 笑みを崩さずロウは笑う。
「大丈夫じゃ、落ち着きなさい」
 孫を救えるのは今である。最後の難関、大地の精霊とコンタクトを取る手段だけが足りない。
頼みの綱は数々の奇跡を起こした勇者の力である。

「大地の精霊を我が勇者に安寧を!」
 ロウがイレの左手を掲げるように上げ、皆が祈りを捧げる。
唐突に始まった儀式、それに反応するように失っていた勇者の紋章に光が灯る。

「私を呼ぶのはお前たちですか?」
 聞き慣れた声に聞き慣れぬ口調が辺りに響く、後ろを振り返るとエマが時の化身を抱いて立っていた。

「エマ?」
「今、皆とコンタクトを取るため、この体を借りています。私は大地の精霊ルビス、大樹より生まれ出でし存在。今までイシの村に加護与えていました」
 幼馴染の存在が異質に光る。


導き出したカケ。

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