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竜の眠る地

DQ主達の記録

Lv.1:アリアハンの王様にあった。



 己の名を呼ぶ声が聞こえる。
あぁ、もうそんな時間か。
ゆっくりと覚醒する意識。目覚めたとき、視界に捉えた母が微笑みかける。
「今日はお前が始めてお城へ行く日だったでしょう。この日のために母さんはお前を『勇敢な男の子』として育てたつもりです」
 その言葉にゆっくりと頷く。そうだ十六歳になったこの日、勇者として悪を滅ぼす旅に出るのだ。

「よくぞ来た! 勇敢なるオルテガの息子よ! そなたの父オルテガは戦いの末、火山に落ちて亡くなったそうじゃな。その父の後を継ぎ旅に出たいと言う、そなたの願いしかと聞き届けた!」
 己は父の顔を知らない。物心ついた頃には勇者として旅に出ていた。父の情報は母からの言葉が全てであった。
「敵は魔王バラモスじゃ! 世界の人々はいまだ魔王バラモスの名前すら知らぬ。だが、このままではやがて世界は魔王に滅ぼされよう。魔王バラモスを倒してまいれ!」
 大国アリアハンの王が全てをあげて出す討伐命令。皆が太刀打ちできない存在ー魔王の脅威から作られた『勇者』という新たな職業。
己は成る可くして成った、悪を討つ為だけの存在。


「なんだよな」
 仲間を探すが良いと言われて来た酒場。普段の騒然たる活気があるはずだが、今は閑散としている。
「昼じゃしのう」
 周りを見渡している己を見て、楽しそうに笑う老人が、独り言のような言葉に相槌を打つ。
「いや、そういう理由じゃないと思うわよ」
 ピンクの短いポニーテールを揺らしながらツッコむは、可憐な少女。年齢は己と同じか少し上だろう。老人と同じテーブルに座って寛いでいる。

「そもそも、なんでお前がいるんだ!」
 己の示す先にはボールを器用にお手玉している男、ピエロメイクに青鼻まできっちりつけた遊び人。そんな職業が成立しているのにも不思議だが…。もはや、何をしに行くのかわかったものではない。
「あの期待の星オルテガがいなくなった今、誰も死にたくないってことでしょうね」
 呑気な答えが返って来て頭を抱えたくなった。だが、その言葉は正論だろう。
勇者が旅立つことは大々的に宣言されている。しかし、年齢はまだ十六歳。実績はなし、期待できる方が可笑しいと言うものだろう。
我こそはと名乗りを上げて子守りなんぞしたくは無い。
屈強だが少し乙女チックな戦士とか、物腰の柔らかい清楚な僧侶とか、己の信念を持っている頑固な武闘家とか、口ではつっけんどんだけど実は優しい魔法使いとか、期待していたのになんてことだ。

「ま、元気だしなよ。選ばれた者だけが成れる勇者の特権ってあるんでしょ?」
 ニコニコと損得勘定しかないと断言する、とっても心に刺さる言葉を発したピンクの髪がトレードマークの商人。名前はアキド。片手にそろばんを持ちバラモス討伐とは無縁な計算をはじき出す。
「どうなんでしょうねー。少なくともここでは優遇されてそうですねー」
 全くもって危機感のない言葉で返えすは、名乗るときに『ピエロ』とか、言っていた胡散臭い遊び人。年齢もこちらから読み取れない。コレが母の推薦する旅の仲間なんだからたまったもんじゃ無い。
「勇者よ。気を落とさんことじゃ」
 唯一期待していた職業の一つである魔法使いだが、既に老人のゼト。長年旅をして来たと言うので恐らく一番頼りになると思いたい。このメンバーの良心であって欲しい。
「しっかし、女の子と旅ができるのはええもんじゃのう」
 アキドを上から下まで舐め回る視線を送るゼト。
「わかります。人生には華がないといけませんよねー。私には青い鼻しかないですしね!」
 にっこり目を細めて頷くように同意するピエロ。
「あたしのお触りは高く付くわよー」
 そんなメンバーに負けない勝気な笑みを返すアキド。
 この三人が今回の旅の仲間である。

「…………」
 そしてこの度『勇者』という特殊な職業を得た己だが…。まだ、旅出ていないというのに既に挫けそうです。

「それで名前は? 勇者君の名前教えて欲しいな!」
 アキドは絶望に打ち拉がれている己に近づき初めましての挨拶をする。
「え、ああ、勇者でいいよ。皆からそう呼ばれているから」
 父オルテガが亡くなったと伝えられたあの日から、自分の名は捨てさせられ『勇者』と言う肩書きだけが今の己にある。
「分かったわ。宜しくね勇者君」
 互いに握手を交わし、上っ面だけかもしれないが、この笑顔に癒された。
「良い子じゃのう。良かったではないか」
 ゼトはニヤニヤと笑う。その表情に気まづさを覚えて咳払いをして、事前に計画していたことを伝える。
「取り敢えず、装備を整えるのと皆の実力を知りたいから、今日は共にアリアハンの外でモンスターとの戦闘を中心に行おうと思う」
「えー。戦闘なのー? お金儲けしようよー」
 真っ先に反応したアキドは即座にブーイングする。
「そうじゃのう。魔法使いに転職したてじゃしどうなるか見てみたいのう」
 メラが撃てるじゃろうか。楽しみじゃのう。ゼトは白い髭を撫でながら良からぬことを考えてそうな目で賛同する。
「訓練は必要ですねー」
 賛否両論。ピエロなんて、一見、賛同してくれてそうだが完全に座ったまま動いてないので、言動が一致していない始末。
「…………勇者命令だ!」
 酒場に己の声が響き渡る。前途多難、やっぱりもう挫けそうです。

 勇者Lv.1、旅立ちに不安を覚える。

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