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竜の眠る地

DQ主達の記録

酷な運命を受け止めて

ケトスに揺られながら目指す神の民の里。
金色に輝くそれは、猛スピードで飛んでいるのにもかかわらず風の影響を然程受けず、彼の背に立ち続けられるという不思議な力が作用している。
ケトスが一回転しても平気というのも摩訶不思議だ。
こう何度も不思議な経験をしてきた為にこう言うもんだと何も気にせず乗り回している。
全く人というものは何と図太いものだろう。

「どうしてこんな事になったのよ!」
 ベロニカは小さい体を震わせながら、奥歯を噛みしめる。
勇者を守り導く使命であるはずなのに、勇者が倒れて何もできない事が許せない。
人の形をしているが人ではない双賢の姉妹。
いや、人ではあるが人から生まれていない存在と言うべきだろうか。
兎にも角にも命の大樹から使命を授かった特異な姉妹である。
だからこそ、大樹に選ばれた勇者に対する思いは人一倍強い。
「あたしはイレに生きてもらわなきゃダメなのよ!」
「お姉様、落ち着いてくださいませ。イレ様が目覚めないわけではありません。日々、戦いの連続でしたから、ただの疲れです。きっと大丈夫ですわ」
 双子の妹であるセーニャは姉のベロニカがすごく動揺しているように見えて、首をかしげる。
何かに怯えているような、勇者が倒れるその状態に追い詰められているようにも感じる。
そう言えば、雪の覆うミルレアンの森で一度イレが魔女に襲われて氷漬けの危機に陥った時も、このように非常に焦っていた。
いや、今回より原因がはっきりしている前回の方が落ち着いていたかもしれない。
「怖いのよ。このままイレが帰って来ないような気がして…」
 それは…確かに昏倒した理由が分からない。
分からないのに今現在意識のない彼がもう二度と目を覚まさないのではないかと言う恐怖が襲う。
「そんな事…」
 否定したくてもロウと治療に当たったセーニャには完全に否定できない要素を知っていた。
精神的に弱っている、魔力が極端に少なくなっており、それを補う為に人間の生命力にまで食い込んでいたのだ。
外部から魔力を補う応急処置で現在の状況まで持ってきたといってもいい。
ロウがイレの回復を待つ間、皆でくつろぐより前にこの原因を究明しようと動き出したのにも理由があるのだ。

「こんなことになるって分かっていたら、あたしが代わりに…っ!」
 ベロニカは最後まで言葉を発することができなかった。
セーニャに抱きしめられたのである。
「お姉様、それだけはやめて下さいませ」
 唇が震えて、喉の奥から冷え切った恐怖が襲い上手く声にならない。
それだけは、それだけはしてはいけない。
「ちょっと、セーニャ。あなた何泣いてるのよ!?」
 考えないように、考えないように蓋をしている思い。
肯定したくない出来事。
あれはタチの悪い夢である。
だって、お姉様はこうやって抱きしめることができる。
触れようとすると消えてしまう存在ではない。

 お姉様は生きている。

「私とお姉様は同じ葉の下で生まれた存在です。決して先に逝くなどとおっしゃらないでください」
 もう二度と目を離さない。迷わないための道しるべなんて要らない。独りにしない配慮ももう沢山だ。
「えあ、そのセーニャ? 確かにあたしも言い過ぎたけど…あたし死ぬつもりなんてこれっぽっちもないわよ?」
 想像以上の過激な反応に目を白黒させる。
本当にどうしたのだろう。
魔力が足りないと言うのなら、ベロニカの方が体内に溜めておける魔力が多いのだから、直ぐさま分け与えてもいいと言う心意気だった。
実質はロウがそれをになっていたので、出る幕では無かったと言うだけの話である。
「そ、そうですわね」
 はたと冷静になればなんと恥ずかしい早とちりである。
抱きしめていた腕を慌てて外し、見当違いの心配に頬を抑えて恥ずかしがる。
基本セーニャはマイナスの方向に考えることをまずしない。
心優しい彼女はそうすることで自身の心が傷つき朽ち果てるのを防いでいるのだ。
だからこそ、姉であるベロニカは傷つく要素がある物を持ち前の気の強さで先に粉砕しているのだ。
だが、今回は何時ものそれではない。
彼女がマイナスの方向に言葉を捉えたのである。
「セーニャ、何があったの?」
 訝しげに尋ねるも一度落ち着いたセーニャは首をかしげると言う反応になってしまった。
あの涙の訳を聞くことはできないだろう。
封印されたマイナス思考。
「何がでしょう?」
「ううん。何でもないわ」
 抱きしめられたことで皺になったスカートの裾を払い視線を前方に移すと、もう目の前に神の民の里が見えてきた。

「ベロニカ」
 今まで我関せずとしていたカミュが不意に声をかける。
怪訝に思いそちらを見ると、なんとも言えない顔をしているではないか。
そのことに再度驚く。皆イレの事で動揺しているようだが、冷静なカミュまでも何かがおかしい。
「何よ?」
「いや、妹ってのは案外強いし、強かだぜ。だけど、経験しないで済むならそれに越したことはねーよ」
 言葉に出してから、あー何言ってんだ俺と言うように、頭を左手で搔きむしり、今のは忘れろと言うようにひらひらと手を振る。
その先の疑問は神の民の里についてしまい、うやむやになってしまった。


 あの時、カミュは抱きしめて訴えるセーニャを見つめながら、ありえない光景がいくつかフラッシュバックしていた。
手を伸ばす妹のマヤ、それを一度拒んだ後悔が再び再現される。
ずっと側に居ると思っていたのにあの首飾りが全てを狂わした。
そう、いつどこで何が起きるかわからない、ずっと共に過ごせる保証がどこにもない。
どこかで甘えていたのだ。
大丈夫だと死ぬはずがないと……? 誰が?

(マヤ?)

 金色の蔓が襲い掛かるそれを避けながら、今度は苦しそうに伸ばすマヤの手を掴む。
金色に体が変わることも気にせず抱きしめる。
そこでマヤの意志の力が土壇場で発揮し、黄金に染まる事なく救い出すことに成功した。
あぁ、これで俺の贖罪は果たされた。
カミュはそこまで考えてゾッとする。
「おいおいマジか」
 思わず声に出た。そこから、現実に意識が戻りほっと胸をなでおろす。
元気よく『にししっ』と笑うマヤ。
勇者の力により無事に助け出された。
悪い夢を見たと言う彼女を抱き締めて温もりを感じる。
もう離さなくていい、その嬉しさがこみ上げる。

 結果的には『やる事やって戻って来い』と尻を叩かれた。
幼い幼いと思っていた妹は何時の間にか強く成長していた。
受けた恩は義理で返す。
『もう返して貰っている』と笑う相棒にカミュ自身の気が収まらないからと、邪神に戦いを挑むのに付き合った。

 もう、そばにいる必要はない筈だ。
しかし、何故か心の底にある蟠りが解けない。
(マヤすまん。もう少し待っててくれ)
 にししっと、腕を頭の後ろで組み『しょーがねーなー』と元気よく笑う姿が思い浮かんだ。


代償の効かぬ少女

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