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竜の眠る地

DQ主達の記録

番外1-2:ローレシアの城 後編



 思い立ったら吉日、ローレのお世話から解放されて、悠々自適に生活しているであろう爺の居る部屋に駆け込む。
「爺! 先祖の手記を見せて欲しいぞ」
 ノックもせずに開け放ち、早速要件を述べれば、彼の性格を熟知した老人は、先ずは座りなされと持っている杖でコンコンと椅子を叩く。叩かれた椅子に視線を移してから大人しくその指示に従うローレ。再度要件を告げようとするローレに掌を見せて待つよう促し、入り口付近で戸惑っている異国の訪問者達に声を掛ける。
「ようこそおいでなすった。わしはここローレシアで王より長年、王族の教育するよう命ぜられている者じゃ」
 その言葉に促され、自己紹介後ローレと同じように用意されている椅子に腰を掛ける。
「して、何故先祖の手記とやらを欲したのじゃ?」
 ジッとこちらをみる目は何かを見定めるように鋭く光っていた。長くなる覚悟で、三人は口々に旅中の出来事、その後にふと湧いた疑問などと話し出した。
要領の得ない話も多く、脱線を含めて二転三転したが、爺は辛抱強く耳を傾けてくれた。
壮大なる冒険譚のその先、ハーゴンの戯言による、ぶち当たった問題。一通り話し終えた三人は彼の第一声を待つ。

「そうか、ムツヘタは名乗ったのじゃな」
 一通り話を聞いた爺は目を瞑り、そう一言漏らした。
「それで、勇者と共にこの国を建国した姫。ラダトーム出身のラルス16世の娘、故ローラ王妃の書かれた、後の竜殺しの勇者と言われる男に関する手記の原文を読みたいと思ったのです」
 勇者は国を作った。しかし、政治的側面は主に専門教育を受けていたローラの役目であった。
勇者は王になりはしたが治安に関する軍事的側面を強く持ち、あまり表舞台に出ることはなかった。これがローラと勇者の歴史的に残る資料の差異に影響している。
そして、このローラの手記こそ、勇者を讃える唯一の書物と言っていい。
「…成る程のう。あの頃は手探りで右往左往しておったな。懐かしい」
 昔を思い出してか、目を細める爺。皆が何かを言う前に立ち上がり、一冊の書物を渡す。
「原本ではないが、内容が全く同じに現代語に複製された奴じゃ、原本はこの城の一番奥、国が滅ぼうともそれだけは残る場所に置かれておる。お前が王位を継ぐ時に知らされる場所じゃ。例え、親戚の国であろうと、他国の者に教えることはできん」
「サマルもムーンも悪用しないぞ?」
 ローレがきょとんとして言えば、爺は首を横に降る。そんなことは百も承知である。しかし、国の秘密を知るものは少ない方がいい。この事が明るみに出るのはこの国自身が滅びた後で良い。そう言うものがあると言う。
「いえ、無理言ってすみませんでした」
 表情を固くしたサマルは短くそう言い、確かに受け取ったこの書物を見つめる。
「隣を使うと良い。あそこは十分に明るいですぞ」
 爺に促されるようにムーンとサマルは隣の部屋へ向かう。ローレも行こうとしたが、爺が杖で遮り再び腰を下ろすように言う。それに従いつつ首を傾げた。
「…?」
「さて、お主は何がわからないのかのう?」
 その表情を見たローレは、これは授業の始まりだと認識した。


「門外不出か。この本には予想通りというか。確かにローラの手記だったけれども…」
 サマルはペラペラとページを捲る。現代に訳された読み易いこの本は、求めていた者が書いた書物に間違いないが、書かれている時代が少し違う。
「少し当てられた気分だわ。ドラゴンからの救出劇について事細かく描かれているわね…」
 この二人が相思相愛だったのは知っている。本に書かれた惚気としか言いようのない文章は、昔なら夢を見ながら、憧れたであろう。しかしこの綴られている戦記は、旅と言う過酷な状況を知ってしまうと、ただの甘いひと時であると、もう思えない。
「確かに勇者は勇者であったことはわかったね」
 完全に色眼鏡だろうなとも思える内容でもあった。そして、中を飛ばし最後のページは船の旅立ちで終わっていることを確認して本を閉じる。
「勇者とは、物事を成し終えた人が称えられる称号であるが、成し終えた英雄のその後は、謎に包まれている。この一文は聞き飽きたわ」
 はしたないとわかりつつも思わず机にべたりと頬をつけ脱力する。知りたいのはそこじゃない。しかしこの本を渡し、追い出された身では関与を拒絶されたに他ならない。
考えたくもない闇の正体はあながち嘘ではなかったのか、信じたくないのに疑心暗鬼となって行く心に影が落ちる。

「ムーンこれ…」
 本を再び読んでいたサマルが血相を変えてムーンの名を呼ぶ。何をそんなに…と眉を潜め、覗き込み指差された一文を読む。
「えっと『竜の王が従えし眷属のドラゴンは私を攫いて真を聞く。されど恐怖に陥った私は怯えるだけで何も答えることできず』…これって」
 この眷属と言われている【ドラゴン】はあのロンダルキアへの洞窟にいた緑竜のことだろう。炎の息で全滅しかけたのは記憶に新しい。直接姫を攫った【ドラゴン】は既に倒されている筈だが、どうしたのだろう。
「聞くって、質問したってことだよね。つまり言語を操っていたってこと、喋れるモンスターがいたんだ」
「竜王の曾孫とか普通に喋っていたのだから不思議じゃないわよ?」
「そうかも知れないけど、もしかしたら、竜王の曾孫より事情を知っているドラゴンが居るかもしれないよ?」
 表に書かれていない二度の戦い。その事情を知って居るモンスターがいるかもしれない。人間の記録には残されていない部分を知る魔物。
「成る程、確かに魔物は人間と比べて寿命が長いと聞いているわ」
 勿論系統によって寿命の差があるだろう。そもそも【スライム】や【くさったしたい】などは寿命があるのか疑問なモンスターも多い。研究はされているが、まだまだ生態系が不明なものも多い。
「曾孫さんにもう一度会うの? 友好的だったから会ってもらえると思うけど」
 会うのはいいが、彼の話は要領が悪く良くわからない。その原因は彼自身の記憶が曖昧で昔の事を理解していないからだ。
「うん。あのドラゴンは竜族なだけあって曾孫さんの直下っぽいから、上手く行けば喋れる竜もいるんじゃないかなー」
 可能性はゼロではないのだから、行かない手はないだろう。久しぶりの休日はこの調べごとで終わりそうだと、ムーンは苦笑いした。
復興中の身なので休むこと自体、憚れた。しかし、ローレシア王からの直々の訪問依頼に始まり、それに便乗した叔父がそれならと長期休暇を下さったのだ。
「あなたはそんな呑気にしていていいの?」
「んー? 僕は気楽な立ち場だよ」
 幸いと言うべきか、ローレシアとは違い現サマルトリア王はまだ若い。晩婚で王妃にローレが生まれると同時に先立たれてしまい今や直系跡取りがローレしか居ないローレシア王。
ムーンブルクも城が滅ぼされて今やロトの血を引く者はムーンだけだ。
 それらに比べれば、両親は健在、血筋もサマルが第一であるとはいえ、妹がいる。それにサマルトリアの役目は往年より血筋を守ること、主たるローレシアに何かあっても換えが利くように用意された保険。
ローレシア王は苦悩しただろう。ルビスの加護があるとはいえ、世界の危機に唯一の長子が、完璧ではないその力を頼り、ハーゴン討伐へ赴かざるおえなかったのだから。無事に帰って来たときは相当ホッとしただろうと思う。

「…それは、違うと思うわよ」
 少し眉を下げて困ったようにムーンが言う。のんびりで呑気なサマルだが、思考はいつもマイナスで悪くならないようにと願っている。そこまで卑下する必要は無いと思うが、どう言葉がけをすれば良いかわからずにいる。こう言う精神論ではローレに敵わない。彼が楽観的過ぎるとも言うが…。少なくともあの苛酷な旅の中で楽しい思い出がたくさん蘇り心温まっていたのは確かだ。
「そうかな?」
「そうなの、皆同じよ」
 意図が掴みきれず、眉を顰めるサマルにムーンはそう強く言い切ることでマイナスに陥る思考を中断させた。
<夢の先>

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