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竜の眠る地

DQ主達の記録

番外1-3:リリザの町



 翌朝、懐かしい旅装束に身を包んだ三人は渋るローレシア王の許可をもらい城を後にした。ローレは久し振りの外出に気分が高鳴り拳を天に突き上げている。

「まさか、彼王が『必ずローレシアの城に帰ってくること』っていう条件を出す程とは、想像できなかったね」
 意気揚々のローレを見ながらサマルは苦笑する。一体ローレシアの城で何があったのやら、すっかり信用ならない不良息子扱いなのが、少し笑いを誘う。
「勇者としての使命がなくなれば、王族というのはそういうものでしょう? さらに言えばローレだもの、このまま帰ってこないかもと思われたのでは?」
 同じく笑みを蓄えつつ、せっかく無事に帰ってきたのにかかわらず、護衛も無しの旅を再び始めようとしている三人の方が実は異常だと言うことをムーンは説明する。
「そう言えばそうだね。僕も三人でいるとつい忘れてしまっていたよ」
 行きは付き添いのものが一応に居たが、旅をする上で、許可をもらうためにサマルトリアの城に先行して、報告に行かせた。

「わかる気がするわ。ムーンペタにいると否応でもなく現実を突きつけられるもの」
 平和になった世界、モンスターもいるにはいるが、ハーゴンの影響が外れたのか、穏やかなものである。
それでも侵された大地が瞬時に戻るわけではない。進まぬ復興だがムーンができることは光となりその場に立つことである。
石を運ぶわけでも、食料を作り出すわけでもない。それらを行う者達の希望として立ち、何も問題ないと微笑み続けるのである。

「ムーン?」
 思わず俯いてしまった顔をいつの間に側に来たのか不思議そうに覗き込むローレと目が合う。
「何でもないわ。ここからどうするの?」
 首を横に振り、落ちる思考を止める。ムーンの笑みを見てから、その答えを求めるように視線をサマルに移す。
「取り敢えずは申し訳ないけどサマルトリアに一応寄ってもいいかな?」
 そんな期間、空けるつもりでこちらに来たわけではないので、ちゃんとした旅支度とサマルトリア王にその旨をきちんと伝えたいと言うのがサマルの主張である。
「おう!」
「いいわよ」
 ローレはサマルの言葉に了承して、再びムーンへと向き直る。
「ムーンは寄らなくてもいいのか?」
「えぇ、あなた達二人と一緒ならどの護衛よりも頼もしいわ」
 ムーンの微笑みにそんなものかと納得する。サマルは少し何か言いたげだったが、何も言わず足を進めた。

 ほら問題ないぞ。ローレは意気揚々と先頭を歩く。あの城での爺との会話だけではまだ真相にたどり着けないが迷わず真実を探せればいいと思った。

 時はしばし遡る。

「爺は知っているのか? ローレシアができた理由を」
 二人が出て暫しの沈黙後、ローレは引っかかっていることをストレートに伝えた。
「……そうさのう。直接見たわけでは無いが、彼奴は自分が治める国があるならそれは自分自身で探したいと言っておったそうだ。だから、自分の理想の国を作ったのじゃ。それがここじゃ」
「ここには何も無かったのか?」
 今はローレシアと呼ばれるの場所に先住民として、ハーゴンはいたと言う。そこを追われたことで恨み、そこを取り返すために邪神に身を捧げた。
「…ハーゴンに侵略してできた国だと言われたのじゃな。どっちが正しいと思っておる?」
「わからないんだぞ。だから爺に聴いてるんだ」
 ローレはいつもわからない時は真っ直ぐに質問した。だが、爺の答えはローレの思いを確認するためか、再度質問してくる。
今回も意図は不明だが、どっちが正しいと決めることができずに悩んでいるのに、酷い質問である。わからないと言う以外になんと答えたら良いのやら見当がつかない。
「また一段と、立派になられましたな。わしが言えることは、初代王は勇者であった。それが全てですぞ」
 感情で優劣を決めず、わからないと言い切ったローレに爺は目を細める。これなら、ある程度は話しても大丈夫だと結論付け、天井を見上げ過去を思い出すよう目を閉じる。
「勇者ってなんだ?」
「一説では、魔に相対する光の存在。人々の希望であるとされておると昔説明したことは覚えておいでですな?」
「空から降ってきたんだったな」
 勇者と言われる存在が認知されたのはずっとずっと昔、それこそ空想か現実か、真偽が曖昧な神話の時代より語り継がれてきた。その曖昧な伝説を真と裏付けた存在が、ロトの血筋の元祖。世界を闇から救った勇者ロトである。
「一説ではな。これは初代王よりも遥かに昔じゃて、真を知る者はもう…いや、話がずれましたな。初代王もまた闇の世界から人々を救った勇者じゃと言うことですな」
「よくわからないんだぞ」
 爺の話はやはり抽象的で結論が曖昧である。もっと白黒はっきりしたことを教えてくれたら、このモヤモヤとした感情をもてあますことがなかったのに…。
取り敢えず、理解したことは何があってもローレが思い描く勇者像に反した行動ではないという事ぐらいである。つまり、侵略だったとしても、理由なく侵略したわけではないということだ。
 うんうん唸っているローレに爺は先程と同じように目を細める。素直で言われた通りしか理解しなかったローレが考える力を持ち悩んでいる。やはり旅は彼に心の成長を促した。もう一息だ。
「さ、お仲間が待っておいでですぞ」
「おぉ、そうだった。爺ありがとな!」
 思考を中断させ、サマル達が出て行った扉の方へ走り出す。

 やはり思い出してもなんの確証も得られなかった。何故二人を追い出したのか。一人で受ける必要があった授業だったのか。さっぱりである。
ローレは思考を追い出すようにメットを脱ぎ、首を振る。
「ローレ。少し気になったのだけれども」
 ここはリリザの村の宿。寝る支度の姿を見て言いにくそうにムーンが尋ねた。
「ん?」
 ローレは首を傾げていたが、サマルはムーンの視線で何を言いたいのかを理解する。
「あぁ、ローレの髪の毛だよね」
「髪?」
 普段はゴーグルとメットで隠れているローレの髪は以前と比べて色素が落ちているのである。
と言っても、全てが全て落ちているわけではなく、短い髪の至る所でメッシュのようにキラキラと輝く銀色が垣間見えているのだ。
「昔は真っ黒だったよね。いつから?」
 少なくとも旅をしていた時は黒かったと記憶している。だが再び会った時には既にこのような感じになっていた。オシャレかと初めは思ったが、ローレの反応からそうでもないように感じる。

「わかんないけど、気づいたらこうだったぞ?」
 無頓着なローレに詳細がわかるはずもなく、気づいたのは城に帰ってからだと言う曖昧な返答であった。少なくともローレシアの城にいるときに何かをしてこうなったわけではないと言うことである。
「髪以外に変調はないのよね?」
「おう。皆は過酷な旅だったからだと言っていたぞ!」
 その辺りは否定できないところである。ああだからローレシアの王も旅を渋っていたのだろう。妙に納得してしまった。
「確かに過酷だったね」
 直接な原因はわからぬまま、この話は区切ることとなった。
<勇者の運命>

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