Lv.2:それぞれの戦闘を見た。
「そいやー!」
何気に運動神経が良いのか、最弱と言われている【スライム】と言う青い雫型のモンスターにトドメを刺すアキド。檜の棒を誰よりも鮮やかに操る。想像以上だったため、代わりに棍棒を渡した。カッコ悪いと渋い顔をしていたが、檜の棒より強いのだから我慢して欲しい。
「あ、1Gめっけた」
時折、お金を見つけて戦闘に集中してくれないのがたまに傷だが…。
「メラじゃ」
攻撃魔法の呪文メラ。ゼトは敵単体に火の玉をぶつける。流石、魔法使いと言うべきか、不気味に戦利品か何かの髑髏を持って襲い来る大きな黒い烏。名は【おおがらす】その【スライム】より少し強い相手でも一撃で倒す。
やはり頼りになる。
「あ、魔力無くなってしもた」
魔法使いは魔力が命。無くなると最も足手まといになる。取り敢えず檜の棒で叩くが【スライム】のプルプルボディーにすら弾かれ、攻撃が通らなくなった。彼の魔法の使いどころが問題だ。
ここはアリアハンの城下町の外、比較的管理されているのか、この周囲は弱いモンスターが多い。弱いと言われているが、華やかにデビューを飾る己達には、何とか倒せると言う程度である。
「……で、お前は何で、そうなんだ?」
「いやぁ、戦闘は苦手なんですよ」
疲れたとへたれ込むピエロの背中を呆れたように見つめる。母は何を思ってこの人を推薦したのかまるで分からない。
「一番体力があるんだろ。先頭で体張れ!」
「やめて下さい!!」
前に突き出して発破を掛ける。踊り出された為か、【スライム】と【おおがらす】に目を付けられ一撃一撃を大量に食らう。
「え、ちょ! お前!?」
見る見る削られ、一番あった命があっという間に無くなる。
「せめて、旅人の服が欲しかったです。…ぐふっ」
瞬く間にピエロの体は棺桶に収納された。最後のは、何となく笑い取ろうとして、失敗しているようにしか見えない。
「蘇生…お金かかるんだよなー」
「せいやー! おっ、1Gめっけた。これはあげないからね」
ピエロが片付け損ねたモンスターを撃退し、アキドは余分に手に入れたお金を懐へと仕舞う。
「お金は共有じゃよ」
「えー!」
すっかり後方で見学モードになっているゼトがツッコム。
「………」
思わず溜息が出る。今日はこれぐらいかなと棺桶を引きずり町へ戻る。
「で? これが勇者の特権なの?」
アキドはコンコンと棺桶を叩く。静かに収納されているピエロ。中はどうなっているのか、覗きたいような覗きたくないような、そんな気持ちが垣間見える。
「棺桶になったってことはそうだろうな」
いきなりそう言うことを目の当たりにするとは思わなかったが、棺桶を目にしてこれは真実なんだろうと思った。
「死者が死者とならないシステムは、やはり本物か。全く興味深いのう」
ゼトの探究心を擽ったのか同じように興味津々で見つめる。
向かうは教会。ピエロの御霊を呼び戻すためだ。勇者が勇者たる所以、それがこのシステム。誰もがそうではないらしいが、瀕死の重傷を負っても棺桶に入り死ぬことはない。
蘇生はできないが命を繋ぐことができる。
「これが対抗できる手段ねー」
魔王と言う一人間では対抗できない強者を相手にするが故の特権。
アキドは『イマイチ弱いなー』とブツブツ言いながら、この特権の価値を損得勘定で考えているようだった。
「おぉ我が主よ。全知全能なる神よ。忠実なる神の僕ピエロの彷徨える御魂を呼び戻したまえ」
教会に赴き寄付をするとピエロが眠る棺桶が光に包まれる。
「いやー。死ぬかと思いましたよ」
「あんた一回、死んでたでしょーが!」
棺桶から蘇生後の一言がそれだったので、思わず『もう一回入れ』と思ったが黙っておく。まあ、その呑気な一言のお陰で、何事もなく無事に生き返らせられたと認識できたわけだが…。言っておくが先にアキドが突っ込んでいたからとかじゃないぞ。
神父に礼を言い教会を後にする。何事もなく蘇生できたことで、己はちゃんと勇者だったのだと少し安堵する。
「勇者よ」
後方に歩いていたゼトが呼び止める。
「気をつけた方が良いぞ。この力は過信するとそれこそ死を見る。お主の父も勇者じゃったはずじゃからな」
ゼトに言われて、ハッとする。そうだ。この能力も万能ではない。今回は偶々無事だったに過ぎないと言うことだろうか。思わず聖なる力が宿るとされているサークレットの飾りをいじる。
「棺桶の中ってどんな感じなのー?」
「いやぁ、意識がないので何とも。寝心地は悪くないですよ。死んでいたら寝心地も何もないのですけど」
と、呑気に会話している二人の声が耳に届く。いや、己のシリアスな雰囲気を返せ。全員が全員心臓に毛が生えているに違いない。
「ふぉふぉふぉ」
愉快愉快とゼトが笑う。
「お前ら、一休みしたらまた修行だからな!」
何か己が今時のキレやすい奴って、思われていないか心配になってくる程、思い通りにいかない苛立ちが常に襲う。
「えぇー。お宝探しに行こうよー」
「いやー。ちょっと今日は無理ですねー」
「わし魔力空っぽじゃった」
いや、皆がマイペースだと言う事だろう。
諦めろ。己は実力のない勇者で、仲間になってくれただけでも有難いと思わなきゃダメなんだ。
「な事、思えるわけねーだろぉぉぉぉーー!!」
天を仰ぎ思わず叫ぶ。もっと夢見させろよ。勇者になって、ちやほやされたいじゃん! 父の人気を見聞きしていた自分としては憧れもあったんだよー!
何でこんなに辛辣なんだよ。世の中はっ!
「おぉう? キレ症?」
「年頃ですしそうかもしれませんね」
「そっとして置いた方が良さそうじゃな」
鬱憤を吐き出していると、気付いたら誰もいなくて、どこへ行ったと探し回っていたら、自宅で母が丁重にもてなしていた。
「お仲間は大切にするのですよ」
父がいかに仲間を大切にしているかと言う話を聞きながら、項垂れるしかない。勇者の道はとても険しいものらしい。
勇者Lv.2、まだまだヒヨコである。
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