Lv.12:好奇心に負けた。
「エルフの隠れの里は西の森の中じゃ」
一行は取り敢えず情報を求めて、西の森へ向かう。ロマリアで助けを求めたあの女性はもしかしたら、ここ出身だったのだろうか。先程の老人と同じく、自身の力ではどうしようもないほど追い詰められていたのだろうか。
西の森はそこまで複雑ではなく直ぐに見つかった。森に囲まれた小さなエルフの隠れ村、数人のエルフが外に出ている。人間を嫌っているらしく話しかけるとこの土地の名前を教えてくれた子ども以外、逃げていった。
奥へ進むと一際ゴージャスな木々で覆われている家が見える。その入り口へ上る階段の下に老人がおり、何かを叫んでいる。
「お取り込み中? お爺さんエルフじゃないみたいだけど、ここの東にある村のこと知ってる?」
アキドが側によると途方にくれた様に眉を下げ、溜息をつく。
「村が眠らされたのはわしの息子のせいじゃ。あいつがエルフのお姫様と駆け落ちなんかしたから……。 息子に代わって謝りに来ておるのに、ちっとも許してもらえぬ」
なんとまあ。これはこれで、想定外。駄目元で謁見したら、女王様は邪険にしつつも最低限の情報を教えてくれた。
アンというエルフ女王の娘が結婚の証かなんかで必要だったのか、先程の老人の息子と駆け落ちする時に夢見るルビーを持って行ったそうだ。それを取り返さない限り、と言うかアンが戻らない限り、エルフの女王は村の呪いは解く気はないだろう。
とんでも無いことを仕出かしたなー。駆け落ちした二人は現状がこうなっていることを知らないのかもな。知ってたら流石に戻ってくるだろう。
あー、戻ったら最後二度と会えなくなるから目を瞑ってるのかも知れない。それが幸せかどうかは置いておいて…。
「大体の皆の主張は理解できたが…。夢見るルビーがどこにあるか分からないな。駆け落ちした二人が持ってそうだがその行方を知っている人物が居ない」
「取り敢えずは目の前にある洞窟の制覇だよね!」
なんでそうなると言いたいが、己も気になるので、反対できない。お宝ありそうだからな。
「大分染まってますね」
ほっとけ…。懲りないピエロに裏拳を決めてから、洞窟へと降りていく。呻く声が聞こえたが無視しておこう。
洞窟内は単純だがいくつかの道に分かれている。比較的、横幅が狭い洞窟でその分モンスターと戦うのは遣り難い。
まず、縦横無尽に駆け回る【バリイドドック】ルカナンと言うこちらの防御力を落としてくる魔法を使い、集団で噛み砕こうとする。茶色の毛皮からは腐った身がはみ出ていることからゾンビ系の獣であることは分かる。つまり、痛覚はなく倒されるまで攻撃をやめないタチの悪さである。
他には、氷の魔法ヒャドを使ってくる蝙蝠の翼を持つ人型のモンスター【バンパイア】
眠気を誘う胞子を振りまく紫色のキノコ型のモンスター【マタンゴ】がいる。
回復が不足しがちなこのメンバーでは苦戦が必須。
途中にある聖なる力が宿る回復の泉がなければもっと苦労していただろう。途中の場所でその泉を求めている僧侶がいた。隠さずその情報を教えてくれたことに感謝だ。
漸く到着できた洞窟の最下層、妙に人工的な祭壇があるその場所に、添えるように置かれている宝箱。この洞窟探検は無駄ではなかった事を教えてくれる。アキドが期待するような値打ちのある宝は発見できなかったが、本来の目的であるエルフのお宝、夢見るルビーは発見できたのだ。
想定外の最悪な結末と共に…。
「わかりました。さあ、この目覚めの粉を持って村にお戻りなさい。そして呪いを解きなさい。アンもきっとそれを願っていることでしょう……おお アン! ママを許しておくれ……」
己に粉袋を渡した妖精の女王は泣き崩れる。お付きの妖精達おいたわしやと駆け寄る。その途中で出て行けと睨まれた。
彼女もこの結果は想定外だったのであろう。人間は憎いが娘の幸せを願って、今まで敢えて捜索して来なかった。時が経てば娘の考えも変わると願っていたのかも知れない。
現実は、どこかに駆け落ちしたと思われていた妖精の女王の娘アンはすぐ近くの洞窟の奥で、一枚の手紙を残していた。
『お母様、先立つ不幸をお許しください。私たちはエルフと人間この世で許されぬ愛なら、せめて天国で一緒になります……。アン』
「恋愛かー。確かに何かを突き動かす動機にはなりえると思うが…」
それがなぜ死という選択肢となったのか。異種間にある互いの隔たりはそこまで大きかったのだろうか。恋愛をしたことがない己には皆目見当がつかない。
「してみたら分かるじゃろう。ほれアキちゃんなんてどうじゃ?」
エロ供二人が『プロポーションは若干幼いが悪くないだの』『尻の形どうのこうの』と言うセリフを聞き、アキドを後方に隠し、ピエロに威嚇する。毎度のパターンは受け付けない。共通の金も死守する。
「悪くなかろうて」
ゼトは咳払いをして話を強引に戻す。
「アキドねぇ。あぁ、そうか」
なぜ彼女を押すのかと言う疑問の中で、彼女とするのがこの中では一番自然なのかと、改めて気付かされた。かと言ってその対象に、金銭で役に立つ、戦闘では優秀だ、と思っている時点で恋愛感情になるはずもなく。
「なにその反応! 失礼しちゃうなー」
アキドがお尻を触ろうとしていたゼトの手を叩きながら、プンプンと拗ねる。しまった考え込んで隙を見せてしまった。
「あいや…」
可愛くないとかそう言うわけではなくて、ちゃんと可愛いんだけど、意味が違って、どう違うのか説明し辛くて…あーもう、正義だよ! アキドには頭が上がらない。
「はい! 私なんてどうです?」
タジタジの己に割り込む一つの影。
「却下、ゲテモノ食いじゃねー」
反射的に否定。
「即答ですか!」
そこでなぜピエロ、お前が出てくる。元気良く手を挙げているのがムカつく。候補のこの字もねーよ。
「あはは」
まあ、しんみりしていた気持ちは少しマシになったかもしれない。アキドは何にツボったのか、お腹を抱えて笑っている。ゼトがその隙を狙うので止めて、ピエロの不服は無視を決めた。
悔しいかな、どうにもできないのが人の心である。
そんな無駄口を叩きつつ、到着したノアニールの村。
その入り口で、貰った目覚めの粉を手に取る。
不思議な風が吹き、粉を巻き上げ街全体に降り注ぐ。
「はあ!? 親父がこの宿にいただと!?」
夜だと言うのに思わず叫んでしまった。
目の前の人曰く、この町が呪いにより眠りに就く前日に、今自身が泊まっている宿の部屋に居たらしい。
何事もなく目が覚めた住人は、時の流れに首を傾げながらも、夕暮れには荒れた宿屋を再開できるほどに整え終えるプロ根性を見せてくれた。丁度、洞窟探索で疲れていた己達は『泊まれますよ』と言う言葉に甘え、宿泊したその夜のことだ。
旅の戦士(偶々ここの宿に泊まった為に眠る呪いの被害を受けた不運な男)が、部屋を訪ねて来て、己の姿を見て驚き、『オルテガの息子か?』と、気さくなに声をかけて来たのだ。
「ああ、オルテガはつい昨日までその隣の部屋にいたと思ったのだが。確か鍵を求めてアッサラームに向かったはず」
「マジかよ」
親父が旅立ち、そして死んだのがもう何年も前の話だ。親父はこの町を見捨てたのか? いや、そうじゃない。呪いがくる前にすでに旅立っていたのかもしれない、そうに決まっている。
「しかし…。あれから何年も過ぎてオルテガは既に死んだなど、とても信じられぬ……」
「俺も信じられねーよ」
母が王に親父の死を告げられ、このサークレットを預かった。遺体も何もない。王の言葉だけが全てだったのだ。
「成る程、ならば、次の目的地決まったようなものですね」
戦士との雑談後、ピエロは顎に手を当てうむっという。アキドが片手を上げて言う。
「鍵ってあれかな? ポルトガに行く道を塞いでいた」
ロマリアの西に関所があり、盗賊の鍵で開かない扉で塞がっていたのだ。近くにいた兵士がここには『魔法の鍵が必要だ』と教えてくれていた。
「ポルトガは確か港があったと記憶しておるぞ」
港なら船が手に入るかもしれない。いや、アリアハンを出発するときに揶揄われた商人一行が羨ましかったとか、そんな事はないけれども…。移動手段は確保したい。
「なら、魔法の鍵を探さない手はないよな」
「うんうん。アリアハンの開かない扉も開けれるしね!!」
そっちかよ。いや、宝箱はありそうだったけどよ。相変わらずマイペースなアキドに苦笑いしつつ。勇者一行は次の目的地をアッサラームに決めた。
勇者Lv.12、親父の背中を追う。
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