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竜の眠る地

DQ主達の記録

旅の扉の先



 緑豊かで高台に広がる大地。
そこに一筋の鮮やかに光り輝く異世界の扉。
幾重にも重なり多くの者が召喚された事が知れる。
その光が消える時、様々な物語が動き出す。


「ここは、異世界なのか」
 『旅の扉』——遠くの場所のへ一瞬で移動できる手段——で飛ばされた感覚に近い。
眩しい光に包まれ視界を遮られ、グルグルと歪む空間は正しくそれと言えよう。
しかし、全世界を旅したにも関わらず、ここがどこかわからない。
ならばそれは戻ったという訳ではないだろう。

 後ろを振り返れば、祠と呼ぶには作りかけという言葉が近い、それがあるだけである。
時を、世界を、歪ます歪みはもうここに存在していない。
戻れないのなら進むしかない。一歩一歩、慎重に歩き出す。
見知らぬ場所では、少し警戒を強めてしまうと共にいた仲間に心配性だなと笑われていた。
その仲間はもう居ない。追いかけてくることもできない。
漸く独りとなったのだ。

「皮肉なものだ。いなくなるとそれはそれで寂しいと思う」

 今まで一人になったことはそうそうない。旅をしている間は誰かが側にいた。いなくても帰りを待っていてくれた。完全に一人だったのは最後の旅に出たときだけだ。
不思議な思考回路に落ちる自己に叱咤し、止まった歩みを再開する。

 この草原は広い。
遠くに神殿にようなものと、家のようなものが見えた。
何故か迷うことなく、あるいは精霊に縋りたいが為か、神殿の方へと足を進める。


xxxxx


 一人の少年、いや青年もまた歩いていた。
黒き鎧を身にまとい、しっかりした黒い兜から後に赤い尾を出しており、見た目からは戦士を思い描く。
青年は行き先を知っているというわけでもない。
そして、この感覚が初めてというわけでもなかった。

 彼はずっと孤独であった。
町に行けば人と出会えるも、その間の道のりは常に独り。
だから、周囲に気を付けながらも今の現状を鑑みながら一人歩みを進めていた。
何故、この場所に己がいるのかという事実を思い起こすためである。

「船にいたはずなんだがな」
 正確には、船から降りようとしていたと思う。
新しい大地への一歩を踏みしめたという記憶まではあった。
しかし、その一歩を着地した瞬間世界は一転した。
強い衝撃波で揺れる足元。
確認する余裕もなく奪われる視界。
落ち着き辺りを見渡せば、後方にあったはずの船はなく、ただ広大な平野が広がってだけである。
新天地への旅の途中であったおかげか、武装はしていたことが不幸中の幸い。
親しき人の姿もなく、この場所の当てもない。しかし、ここで野垂れ死ぬわけにはいかない。

 出てくるモンスターはさほど変わりはないと言えども油断はできない。
辺りを警戒しながら、あっているかわからない獣道を進む。


「うおぉぉぉぉーー!!」

 すぐ近くで、雄たけびのような声が聞こえた。
男はその根源を探るべく走る。

 そこでは、誰かが黄色い蠍のモンスターを倒しているところであった。
青いヘルメットをゴーグルで固定して、服は鎧ではなく布製の青い生地で全体的に統一しているようだ。

 駆け寄り助太刀をしようとするも、人との共闘はしたことがないため、どうフォローしていいものやらと、少し悩む。
丁度、少年がモンスター【おおさそり】の鋭い攻撃に、体ごと弾き返され、こちらとの距離が近くなる。
その隙を見て、声をかける。

「大丈夫か?」
「…!? 助かる」
 目の前のモンスターに集中していたのか、バッと反射的に振り返り驚くも、こちらが傷を手当てをする魔法をかけると、安心したのか礼を言う。
その後、モンスターがこちらとの間合いを詰める前に再び剣を取り、雄叫びと共に一刀両断した。
その様子を見た青年はあまりの力強さと鮮やかさに驚き、感嘆する。

「………」

 少年は、ふうっと汗を拭い、刃に付いた液体を振り払ってから鞘に納める。

「お見事、俺はアレフ。お前は?」
「えーと…皆からはローレと呼ばれてるぞ」
 先ほどの真剣な表情から一転、にこやかに笑う少年——ローレがまだ子どもであることを理解する。
言い回しが少し引っかかるものの、あえてそれは問わず。先の目的を把握するために、確認する。
「ここがどこだかわかるか?」
「わかんないんだぞ。気づいたらここにいたからな」
 と言うことは、同じく何かの拍子にここに飛ばされてしまったということだろう。
知らない者同士が、考えてもしかない。

「取りあえず行くか」
「おう!」
 にこやかに返されて返答に困るも、そのままどこまで続くか分からない獣道を歩く。
遠くの方にかすかに見える建物が幻でない事を期待して…。


xxxxx


「ここは、祠か…いや、祠にしては立派すぎるか」
 神殿と言うにはいささか寂れている。
一通り場所を調べたが、鍵がかかった扉が多くあり、そこから先には進めなかった。
中央に飾られている像は女性のようにも見えるが、この世のものではないようにも見える。
その後ろにあるのは鳳凰だろうか、全体的に神々しいが、自己の記憶とは結びつかなかった。
ここはこの鳥を祀っているものと判断してもよさそうだ。

「ダメだった。全部持っているカギでは開かなかったんだぞ。それ以外にめぼしいものはなかったな」
 聖なる力で守られているのか、モンスターが出現しないため、二手に分かれて、散策したが、アレフもローレも結局成果が出なかったようだ。
「こちらも同じようなものだ。今は使われていない神殿という感じだろう」
「ルビス様かもしれないな。取りあえずお祈りしてしておくんだぞ」
 祈りをささげると淡い光が疲れた体を癒してくれたそんな気がした。

「不思議なところで変わりないが、今の俺達には何もできない場所のようだな」
「じゃぁ、次の場所まで行くのか?」
 祈りの姿勢をそのままに顔だけをアレフの方を見てローレは質問する。
「そうするしかないだろうな」
 現状では、相変わらず何もわからない。
神への信仰はここにもあるようだと理解する。
ならば、例え窮地に陥っても救いはあるだろうと思う。

「わかったんだぞ」
 ローレは祈っていた手を解き、立ち上がってその場を後にする。
アレフは一度振り返り、この不思議な像を見る。
背後のステンドグラスからの光が合間って、とても幻想的にその二体の像を神々しく照らしている。


「アレフ! 人がいたんだぞ」
 祠を出てすぐに呆然と見上げている人が目に付いた。ローレは嬉しそうに駆け寄る。
黒髪を逆立て、青い玉が埋め込まれているサークレットで止めている。
服装は黄色いインナーに青い服を重ね着して、茶色いベルトで固定している。
少し派手ではあるが、旅人が着ているような一般的な服装である。
濃い青紫色のマントが風に揺られてはためいている。
その姿は記憶の奥にある何かに引っかかるが、出てこなかった。

「おーい! こんにちはだぞ!」
「……!」
 あまりに呆然としてしまっていたのか、相手はハッとし剣を構える。
「ま、まて、俺はアレフ、こっちはローレ。危害を加える気はない。ただの旅人だ。知っているのなら、この辺りの情報を教えてくれないか?」
 アレフが慌てて間に入り、一発触発の危機を免れるよう宥める。
相手も落ち着いたか、構えた剣を下ろし、瞬時に警戒態勢に入ったローレも剣をしまう。
「びっくりしたんだぞ!」
「悪い。ワ…いや、オレはロトの称号を得し勇者。この意味はわかるか?」
 その言葉を聞き、固まる。二人の目は見開き動揺する。
「ロトだと、世界を救ったとされる伝説の勇者ではないか!」
 知っているも何も、アレフ、ローレにとって勇者ロトは過去の伝説と化した人物。
そんな勇者が目の前にいるとは到底信じられない。
「つまり、おれのご先祖か?」
 驚きのあまり声が震えるアレフに変わり、ローレは首をかしげる。
「ローレ。どういうことだ? お前の先祖もロトなのか?」
「そう聞いてるぞ! 百年くらい前に竜の王を倒した勇者がロトの血を引きし者だそうだぞ! おれはその子孫だから、おれもロトの血を引いてるはずだぞ!」
 わかりやすそうで、わかりにくい説明をするローレに、アレフは別の意味で頭を抱えた。
「……竜王を倒したって、それは俺のことだ!! お前と俺も血縁関係なのか!」
「そうなのか!」
 目の前に伝説の勇者ロト、横にいるのは自分の子孫であるローレ。

「時間軸がめちゃくちゃではないか!」
 混乱する頭で、アレフはそう叫んだ。
一体、この世界は何なのだ。



【旅の扉の先】

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