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竜の眠る地

DQ主達の記録

Lv.3:メラを覚えた。



 自分が覚えた呪文が、魔法使いの魔法と同じ『メラ』であることに、不思議な気持ちになった。魔力消費の割に威力が小さく、普通に銅の剣で攻撃した方が早いと判断し、お蔵入りだなと思考を巡らしていたときだ。

「ねー。まだ戦うの?」
 棍棒(貰い物)から銅の剣(100Gにて購入)へと武器を買い換えたアキドは、毎日同じことの繰り返しに飽きたと、一撃で【おおがらす】を倒しながら文句を垂れる。何やかんやお金を余分に拾ってくれるし、一番使える子かもしれない。

「確かに毎日同じだと緊張感に欠けますねー」
 同じく銅の剣に装備を変えた筈なのに、己やアキドより低い攻撃力のピエロが、相変わらず疲れたと息を切らす。
「いや、お前が一番役に立ってないだろ」
「いやぁー。戦闘は苦手なんですって」
 頭が痛い。酒場で一番仲間にしちゃダメだ、と言われていた理由が何となくわかった気がする。仲間になってくれる人がこの人達だけだったので選択の余地はないのだけれど。
「確かに単調じゃな。そうさのう、城下町の噂で聞いた場所はどうじゃ?」
 以前よりかは魔力の持ちが長くなったゼトが、アリアハンの城下町で聞いた情報を話す。海伝いに南西に行くと岬の洞窟があるとか。
「そう言えば、あの塔ってどうやって行くんだろーね」
「ナジミの塔でしたっけ」
 海の浮かぶ小島に建てられた謎の塔。視線を上げると夕日が丁度ナジミの塔に重なっており、神秘的な雰囲気を醸し出していた。
「なんかお宝ありそうじゃない?」
「盗賊稼業でも始める気かのう」
 豪快に笑うゼトに『商売するには収入が大事なの!』っと拗ねたように言う。
「分かった分かった。明日の早朝、岬の洞窟に行くでいいか?」
 すっかり戦闘モードから雑談モードに変わって盛り上がる三人へ、既に諦めモードの己が提案する。
「さっすが勇者君! 分かってる〜」
 戦闘時間が伸びて、日が暮れ夜になる時間まで、魔物と戦闘ができるようになったのだ。大丈夫だろうと己に言い聞かせる。

 四人はぞろぞろとアリアハンの城下町を探索する。
「そう言えば夜の街を歩くのは初めてですね」
 ピエロに言われてそう言えばそうだなと思う。勿論、ここが実家の己は夜の町が珍しいというわけではないが、きちんと見て回るというのは初めてかもしれない。
「お城は閉まっているぜ」
「あ、そうなんだ」
 お城の方へ足を向けていたアキドにそう言うと黍を返す。
「夜の城に行って見たかったのですか?」
「んー。そう言うわけでもないけど」
 名残惜しそうに見るアキドにゼトが先程の会話を引きずってか、ニヤニヤと迫る。
「なんじゃ、盗みに行くつもりじゃったのか?」
「何でそうなるのよー。金目のものがゴロゴロありそうって思ったけどさー」
 バッという音が出そうなほど素早く振り返り、バシッとゼトの背中を叩く。
「悪に染まるのですか? 悪徳の勇者一行…良いかも知れません!」
「良くねーよ!」
 何言ってんだお前は。勇者が悪に染まってどうするんだとジトッと睨む。こいつらの思考にはついていけない。溜息が出る。

 夜の町での情報は大したことなかった。酒場にいた戦士が夜の店の警備をしていたぐらいだろう。
戦士、対魔物の戦いのプロと言っていいだろう。旅の仲間になってくれたらどんなに良かっただろう。
登録されていた戦士ハンソロ。
彼は実りのある仕事しかしないとのこと。つまり、用心棒など雇い料をキチッと払ってくれる人以外と旅をしないと言う訳だ。
残念なことに勇者との旅での収入は専ら、魔物が落とすゴールドだけだ。

 なぜ魔物がゴールドを落とすのかと言う話になると完全には解明されていない。一応、有力な説は、とある大富豪が子どもに資産を残す気がなく、世界中にゴールドをばら撒いて『欲しけりゃ力ずくで取ってこい』と言ったのが始まりであるとされている。
ばら撒いたと言ったが、魔物の体内に吸収されると言う大魔法付きのゴールドらしい。それは呪いの一種らしく、魔物が触れると消滅し、その魔物を倒すまで取り出せないと言うものだ。
いや、納得できる規模じゃないだろ。大富豪って誰だよ、意味が分からないんだが…これが最も有力なのだから世も末だ。
 よって、このゴールドの所持数は種族差はあるがモンスターの強さに比例する。弱ければ勿論少ないし強ければ多く手に入る。つまり、アリアハン周囲での戦闘では雀の涙と言っていい。
現在、己の実家があるので宿代は浮いているが、ここより他の場所にコネがあるわけでもない。バラモスがどこにいるか分からない現在、長期の旅になるし、その間の収入はモンスター退治以外では限りなく零に近いと言っていいだろう。

 長くなったが、お金儲けの為に勇者の仲間になると逆に損をする。それが分かっている人は基本仲間にならないと言うわけだ。
アキドは勇者の特権を利用して何か企んでいるみたいだが、己自身にあるのは大それた役割と無謀な挑戦権だけな気がする。

 名誉も財産もいらない。世界を脅かす魔王を共に倒そうって言ってくれる仲間は、残念ながらいない。世の中そんなに甘くないと言うわけだ。

 一通り探索後、取り敢えず明日朝一に薬草と今の所持金で買える防具を買って整えてから、岬の洞窟に行くと言うことで合意して、すっかりお馴染みになった我が家へと戻る。

「……オレ、旅立ってなくね?」

 今更ながらの事実に衝撃を受けつつ、勇者の道のりの厳しさを痛感するのだった。いろんな意味で…。

 勇者Lv.3、駆け出しの駆け出しである。

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