Lv.5:ホイミを覚えた。
まさか、岬の洞窟がナジミの塔へ繋がっていると言う驚愕の事実を突き付けられた一行。
地元ではあったが、町から出たことなかったので、初めて知った。
「生きて帰れただけ、良かったと思うべきか」
「悔しい! 塔に行けるなら金目のものが一杯あったかもしれないのにー」
相当悔しかったのか、アキドの魔物を倒す手が荒く八つ当たりを繰り返している。
「いやー。ビックリしましたねー。ビックな塔にビックリっと! なんてどうでしょう」
相変わらず、戦ってんだか逃げてるんだが良く分からない男は、寒いギャグを飛ばす。
「そうじゃのう。西がダメなら東へ行こう」
すっかり休憩タイムのお爺ちゃん、じゃないゼトは気分良くヒャドを撃って、魔力ゼロである。検証の結果、消費がデカイ分ちょっとはメラより強いのかも知れない? 相手が【スライム】なので、よく分からない。
「お爺ちゃん。東は山が高くて行けないよ」
言い聞かすようにアキドが優しくツッコム。
「なら南じゃ!」
「南は海があって渡れないよ」
可笑しな会話が続く。
「なら、西じゃ!」
「北じゃねーのかよ!」
西は岬の洞窟しかないので、ここから行ける場所は北しかない。思わずのほほんとした会話に加わってしまう。
「素晴らしいツッコミですね」
「言う場所そこじゃねーから!」
あーもう、この人達といると調子が狂いっぱなしである。
「北へ行くの? 町があるって聞いたよ」
目を輝かせているアキドを見て、ここまでの一連で、誘導されていることに気づく。そうか、ここでの【スライム】相手の戦いはそんなに嫌か。
「しょうがねー。新しい町へ行くか」
「やったーー!!」
一番功労賞を送れるアキドの意思だ。少しぐらい聞いてやってもいいだろう。己もつい先程、基礎回復魔法のホイミの呪文を覚えたので、いい頃合いかも知れない。
いよいよ旅立ちか、そう思うと考え深い。
「おや、漸く旅立ちですか」
ガラガラと大きな荷物を持った馬車が横を通過する。その馬車に乗っているのは商人の男。態々真横に停止して、アキドを上から見下ろす。ニヤニヤと己を見て、金で雇ったであろう戦士、魔法使い、僧侶を一通り視線を配り満足そうに頷く。
「魔法は順調か」
コンと杖を叩き、休憩中のゼトに詰め寄る。ゼトより若いがそれなりの年齢がありそうな魔法使いだ。
「勿論じゃよマーリン。わしはこの職業でも優秀じゃわい!」
いや、まだメラとヒャドだけじゃん。装備も杖じゃなく檜の棒だしな。肩叩きに便利とか言っている場合じゃないぞ。
「回復役ではなく。役立たずですか」
ピエロは僧侶に突っ掛かられているみたいだ。確か、ルイーダの酒場の記録にはニコライと書かれていたな。
「心のケアは完璧なんですよ。ピエロですからね!」
青い鼻をビヨヨンと揺らして踏ん反り返る。
心ブレイカーとしては完璧だよ。期待はもうしてない。いないよりマシって程度だ。
「期待しておりますよ。勇者様、世界の平和はあなたに掛かっているのですから」
商人が小馬鹿にした笑みを浮かべ再び馬車を発進さすのを見送る。ぐうの音も出ない。悠々と旅立つ商人に比べずっとアリアハンで屯所してたからな。
先程、口を開くことはなかったが雇われている者の一人に戦士のハンソロもいた。めちゃくちゃ理想のパーティ構成で羨ましい。
「あたしが大金持ちになって泣きついても知らないんだから!!」
通り過ぎていく一行にぷんぷんと言う言葉がぴったりな程、頬を膨らましているアキド。全くと腕を組み、一行の行き先を睨んでいる。
「良いではありませんか! 他所は他所、うちはうちです」
先程の自信とともにピエロスマイルフィーバーしてくる。
「お前に言われると腹たつな」
「なぜですか!」
カッコ良くなかったですか? と言うので『見た目で台無しだ』と言っておいた。
「ふぉふぉふぉ」
愉快愉快と笑うゼト。詳しく語らないのでわからないが、どことなく彼らはこの人達と因縁がありそうな気がした。
片や利益の高い商人一行、片や全てが駆け出しの一応勇者一行。現時点では商人一行の方が強いんだろうな。
そんなこんなで準備を整えた勇者一行は、このアリアハンから北にあるとされている町へ向かうことにした。
道中は弱いモンスターばかりなので和気藹々ピクニック気分である。そういう意味では、駆け出しよりは少し強くなったのではないだろうか。
それらは自信にも繋がり、意気揚々と進む。
「北に行くと洞窟のモンスターもいるのね」
「本当ですね。どこかで繋がっているのでしょうか?」
珍しく普通の会話をしている二人になぜか驚きつつ。【いっかくうさぎ】や【おおありくい】が出てきていることでこの辺りに何かあるのかも知れないと、記憶に止める。
「レーベの村にようこそ」
出迎えてくれた女性に対しての反応は様々。
「態々すみませんのう。できればお茶を一緒に…」
思わず間に入り、視界を遮る。ナチュラルにナンパしてんだよこのジジイは。
「きゃ!?」
その短い悲鳴に振り向くと後方のスカートを抑えている。そのすぐ横にはピエロ。
「子どもか!!」
「いえ、残念な大人です」
「………」
笑顔で出迎えてくれた女性を逃す。セクハラは犯罪だと思うぞ。本気で悪徳の勇者なんぞ目指したくない。
「……アキドは?」
この騒動に一番腹立てるはずの女性の一人アキドがいない。通りで微妙に勝手が違うと思った。
「あっちにおるぞ」
さっきの罰として、思いっきり手の甲を抓ったのが痛いのであろう。手で撫でながらすぐ近くの道具屋を物色しているアキドを指差す。
「酷いです。鼻が真っ青に腫れ上がりました! ってこれは元々でした。はっはっは」
反省も何もしていないピエロは無視してアキドの方へ行く。
「勇者君どう似合う?」
声をかける前に待ってましたとクルリと振り返り、見たのはターバンを装備したアキド。流石、腐っても商人か、その姿は様になっている。思わずコクンと頷くと即購入。その値段に目玉が飛び出るかと思った。
「160G!?」
たかが160G、されど160G。100Gの銅の剣がやっと買える程度の貧乏人が、いきなりそんな贅沢な。その分、防御力は高いですけど、ですけど!
……はあ。
「ありがとー、勇者君!」
「お主、アキドに弱いのう」
「私には厳しいのに」
彼女にはいろんな意味で勝てません。お金たくさん回収してくれるし、一番戦闘能力高いし…。でもさ、そのお陰で、棘の鞭(320G)が買えなかったよ。ちくしょう。
「取り敢えず、ここを拠点に修行だ! 異論は認めない!」
アキドの機嫌が良かったので、即決行した。
勇者Lv.5、弱肉強食の世界。
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