Lv.6:情報を聞きまわった。
「本当に!? そんな素晴らしいお宝が」
村の人が面白い噂について教えてくれた。アキドが身を乗り出している。相手が若干押されているからセーブしようぜ。
「ほほう。情報を整理すると、あのナジミの塔に盗賊の鍵があるんじゃな」
宿屋に向かう途中でゼトが帽子深く被りそこから覗く目をキラリと光らす。
「しかも、この辺り、ちょうど南に降りたところに別の入り口があると言っていましたね」
普段しないようなキリッとした表情で赤く化粧で誇張された口をニヤリと釣り上げる。
「やっぱり行くしかないよね」
口元に指先を当てて、上目使いで目を細める。
「棘の鞭を買ってからだぞ」
どこまでも行きそうなので条件付きだと言えば、コロッと表情を戻してブーイングの嵐。
「ちょっとー。勇者君ノリ悪いよー」
「モチベーションって必要だと思いますよ。私の肌のように弾力性のある感じにモチっと!」
ピエロは頬をプルルンと触る。確認した事がないので分からんが、モチっと弾力があるのは腹部の方じゃないのかと思う。
「あるのは白塗りされたおっさん顔じゃないのー?」
「失礼な!」
手で顔を触り上下に動かしもちもち感をアピールするピエロ。その顔を正面から見たであろうアキドがお腹を抱えて笑っている。
「ふぉふぉふぉ、わしはアキちゃんのぱふぱふでええぞ」
愉快愉快と笑うゼトも謎の参加。
「高いわよぉ〜」
「だから、共有の財布を取り出すな!」
また、スられた。油断も隙もない。
「わかったわかった。ナジミの塔への別の入り口を探しつつ、棘の鞭が買える金額まで修行でいいな?」
「はーい!」
たく、なんでこういう時だけ、こいつらは結託して、仲が良いのだろう。己と同じくあの酒場での出会いが初のはずなのに、どこかノリに乗れない自分が歯がゆく感じる。
「うわー、勇者様って女の人だったんだ!」
打ち合わせも終わり、それぞれ当てがわれた部屋へ向かう。丁度宿屋の階段を上った先の出来事である。己が勇者として旅立ったことは既に有名なことなので、勇者の特徴を知っている人がいてもおかしくはない。おかしくはないがよりにもよって、子どもにとんでもないこと言われた。
「え? 違うの? 僕には女の人に見えるけどなあ」
どちらかと言えば、男よりの中性的とはいえ、真っ正面からそう言われたのは初めてで、かなり動揺した。否定しまくったら、納得しないまでも頷いてくれたのでよしとしよう。焦った。
「勇者君?」
アキドが何騒いでるのと覗かせてきたので何でもないと首を横に振り、おやすみと当てがわれた部屋へ逃げ帰る。
俺は勇者オルテガの一人息子。
オルテガが残した最後の希望。
人生初の宿屋で一泊すると言う一大イベントは、感動も何もなく普通に朝を迎える。枕が変わり寝れないなんてことはなかった。
下に降りれば、既に万全の準備ができている皆と合流。早速、乗り出すは、秘密の入り口、怪しいところを探し出せ!
「ギラ!」
新しく覚えた呪文を駆使してゼトが生き生きと進む。メラが火の玉なら、ギラは火炎放射である。広範囲(と言っても狭いが)にモンスターを焼き払う。魔力消費が大きいことを除けば頼もしい魔法である。
うん。魔法使いはいいな。
「遊び人として完璧に成長してみせます!」
いやうーん。対抗意識燃やすのは良いが…いやなんでもない。頑張ってくれ。
「せいやー。おぉ、ここにきて2Gも見つけた!」
「よっしゃ! 棘の鞭にまた一歩近づいたな!」
うん。確かに強くなった。装備も充実してきたし、再度ナジミの塔をチャレンジできる気がする。この辺りより先に行くと突如強くなるので、塔が最初の目的地だ。全くピエロは死にやすくてしょうがねー。
「そう言えば、商人一行はもう居なかったな」
もう、先に進んでいるのだろう。こちらが遅過ぎるだけともいうが、致し方ない。
「良いじゃん、あんな嫌味な奴」
やばいアキドの地雷だったようだ。プイッと不貞腐れて先に進む。そして、コケた。
「って、大丈夫か?」
駆け寄ろうとしたら、後方で男共が…。
「すごいコケっぷりでしたね」
「スカートじゃったら良かったのにのう」
どこ見てんだよ。何を残念がっているんだ。
「ちなみにご老人、そちらのスカートの中身は?」
ピエロお前、何言ってんだよ。誰も興味ないだろ。
「スカートじゃないわい。由緒正しいローブじゃ!」
もうツッコまねーからな。色々と無視してアキドのそばに駆け寄るとなんと、隠し階段を見つけた。どうやらその段差で躓いたようだ。
「ねーねー。これが噂の入り口じゃない?」
なかなか起き上がらないと思ったら、既に階段の行き先に頭を突っ込んで、物色しているところだった。
「だろうな」
いや本当、彼女が一番逞しいわ。
さて、階段を降りた場所は想定通り、岬の洞窟の自然な鍾乳洞からあの不意に人工物となった場所と状況が酷似しており、南へ足を運ぶと脳内の地図が繋がり、正しくナジミの塔の地下であると確信できた。
己は方向音痴ではないと洞窟での誤ちを脳内から消去する。
「上に行く階段がありますね」
フロアをぐるりと周り、唯一の上り口に到着する。ここまで順調に危なげなく攻略できたことにレーベの村での経験積みは無駄ではなかったと拳を握る。
「いざっ! っと行きたいところだが、引き返すぞ」
「えー!」
意気揚々と階段に足をかけたアキドを制する。
「流石に疲れましたよねー」
「わし魔力尽きそうじゃ」
「しょうがないなー」
大体の仲間の状態が把握できるようになったからか、ギャグもなく、アキドは渋々妥協する。
「いや待て、オレはギャグを求めてねーよ!」
一瞬過ぎった、ツッコミができずつまらないと言う意識に待ったをかける。これが普通だからな。
思わず声に出したため、怪訝な表情で見られたので首を振り、戻るぞと歩みを早める。
「何かを期待した?」
「してない!」
首を横に振り否定。アキドさん、すっごい含みのある笑みを浮かべないでもらえますか。分かってる刺激が欲しいんでしょと言わんばかりでやめて下さい。
「リーダーはええのう。無料で見放題か」
「見えてねーから」
思わずツッコム。そこでハッとするもその反応に満足したアキドは声に出して笑いながら、レーベの村の方へ歩む。
「青春ですね」
もうどうでも良くなった。大きな溜息ひとつついて、アキドに続く。
勇者Lv.6、お色気には騙されないと誓う。
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