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竜の眠る地

DQ主達の記録

記憶の欠片が交差して

「あ、イレだけだったわ。ルーラ使えるの。ケトスで町に降りたら大変なことになりそうだし…」
 塔の出口を出た時にここは絶壁の陸の孤島であったことを皆が思い出した。
「つーかベロニカ。何でお前ルーラ使えねーんだよ」
 彼女だけを責めたいわけではないが、崩れるように気を失ったイレは、セーニャやロウの簡易診察でどこも異常がなく『疲労がたたったのではないか』と言う。
 今もただ眠っているように感じた。
それでも何故か、もう二度と目を覚まさないのではないかと言う不安が皆を襲っている。
その無意識の不安が焦りを生む。
「仕方がないでしょ! 物事には素質ってもんがあるのよ。あたしは方法を伝授しただけ、あの一瞬で覚えたイレの方が特殊なの!」
 杖を地面に打ち付けてキッとは向かうベロニカ。
呪文が使えないのが悔しいと思うのは彼女だけではない。
「アンタだって、リレミトを覚えているんだから一番、素質あるはずよ!」
 グレイグにより抱きかかえられているイレを心配する余り言葉が乱雑になる。
「マジかよ」
「取り敢えず、キメラの翼で帰りましょう。どこを指定してましたっけ?」
 久しく放置していた物を取り出し、どこであろうと町に着くだろうとみんなの確認を取らずにセーニャは放り投げる。
「セーニャ、あなた! …あっ」
 ベロニカの制止も間に合わず一定範囲にいた皆が一斉に飛ばされる。

 冷静なようでいて皆が皆、想定外の出来事で戸惑いが強かったのであろう。
一種のメダパニ状態言うべきだろうか。
言葉を発しなかった残りのメンバーも冷静に対応しなくては、と言う強い意志で沈黙していただけで、脳内は存分に大パニックに陥っていた。
何故、そこまで冷静でいられないのか自身では理解できないでいる事に、さらに混乱を引き起こしているのである。

「と、取り敢えずは安心よね」
 そう言えば最後に訪れたのはここだったなと、ものすごいいたたまれない気持ちにもなりながらダーハルーネの町の宿屋にイレを寝かす。
彼は相変わらず涼しい顔をして、懇々と眠り続けている。
「あの塔は余り良い気分ではないですね」
 セーニャはイレの手を持ち悲壮な表情を見せる。セニカの生い立ちの所為だろうか、神聖であるはずの、あの場所はとても悲しい所のように感じている。
「そうじゃのう。あそこは何なのか今一度確かめる必要がありそうじゃ」
 イレが目覚めない今、様子を見ると共に何かできることを探そうと、ロウは考える。
「じいさん。心当たりでもあるのか?」
 カミュの言葉にイレを見ながら首を横に降る。
「これと言う当てはない。じゃが、イレの言っていたことが気になってな」
「ローシュの行方だったかしら?」
 マルティナは思い出すように腕を組み人差し指を頬に当てる。
倒れる前に発した言葉の真意が確かに不明だ。
セニカが無事に会えたかなと言う意味合いなら合点が行くが、そうではなくローシュがどうなったかを心配していたのだ。
「うむ。元故郷であるユグノアには殆どの資料は残っておらんだろうが、わしらより長寿の神の民や、生前セニカが調べておった古代図書館に資料や何かが残っておるじゃろう。そこから調べはじめようと思う」
 やれやれ、ゆっくりするつもりがなかなか骨が折れる。
「なら、ケトスちゃんを使うチームと私の船ちゃん、シルビア号を使うチームに取り敢えず別れて見てはどうかしら」
 パチンと手を合わせシルビアは提案する。
ルーラは使えないが船はあるのだ。
邪神が倒された今、魔物にそこまで気を張らなくても良いだろう。
「善は急げってことね」
 ぴょんと椅子から飛び降りたベロニカはイレの鞄から笛を取り出す。
どうやら神の民の里に行く方を選択したようだ。
そこから、皆一斉に動き出した。
「グレイグ、あなたはイレを見張っていてね」
「はっ! て、姫さま!?」
 命令とあらばと言いかけて立ち止まる。
まさか自分が残ることになるとは露程にも思わず目を白黒させる。
治療の知識に長けているセーニャかロウが残る方が良いのではと焦る。
「勇者の盾なんでしょ、ちゃんと守ってね」
 ウインク一つで捩じ伏せられて、助けを求める手は宙に浮いて、部屋の扉が閉まるのを見送ってしまった。

「………」
 いつまでもその場に固まっている場合ではない。
大きく溜息をつき、ベロニカが座っていた椅子に腰を掛ける。
八人の旅は結構喧しく、その原因の皆が出て行くと残ったこの場所に静寂が包み込む。
ポッと出た休みに、ずっと動きっぱなしで敢えて考えないようにしていたことが過ぎる。
「俺とお前は一度二人旅をしたことがある気がする」
 謎の感覚。記憶でない別のところでしっくりくる感覚である。
戦っている時に感じる阿吽の呼吸と言うべきか、当初からどう動けばいいか頭で考えるより体で動いて居たのだ。
更に神の民の里で力をもらった時にその意識が著明になった。
邪神の所為でゆっくり考える事を放置していた。
この感覚は理屈で罷り通らない、喉の奥に骨が刺さっているような気持ち悪さである。
その感覚はイレとだけではない。
デルカダール王…いや、ウルノーガにホメロスが理不尽にも倒された時、何故と戸惑う中にゆくゆくはこうなることが分かっていたように思う。
もう少しそれに気づくのが早ければ…手を差し伸べることができたのではないかと言う期待は裏切られた。

 そんな想いの中。
最後まで分かり合う事ができなかった後悔が押し寄せる。
どんなに言葉を並べても互いに上滑りする。
信念の違いだろう。
互いに羨ましく相手になりたいと渇望した。
所詮無い物ねだりの愚かな考えだったのだ。
主を信じ従う。
考える事を放棄したことで招いた罪の重さが胸を締め付ける。

「…俺は何を考えていた?」

 白昼夢から目覚めるようにクリアになる視界。
分かり合うも何もグレイグが闇に落ちた事を知ってから、ホメロスとまともに会話する時間など無かった。

 最終的にグレイグが理解したのはウラノスの例だ。
闇の力と言うものはそこまで魅力的に映るものなのだろう。
ホメロスもその力を求めてしまった。
勇者が選ばれしものであったが為に選ばれなかったものが狂気となる。

「狂気的に力を求めることは恐ろしいことだ」

 本物と共にいるとそんな渇望するものではないと気付いただろうに。

記憶の奥底にある沼

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