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竜の眠る地

DQ主達の記録

Lv.11:初めて死んだ。



 暗い闇。
そこから一筋の光が見える。何だろうとそこに意識を向けるが、身体は重く、身動きが取れない。
自己の身体だと言うのにおかしな話である。その光が徐々に強くなり、辺り一面が真っ白になる。
その光が弱まり目を開ける事に成功。そこにはアキドの少し困ったような、呆れたような感情に、怒りを織り交ぜたとっても複雑な表情が見えた。

「馬鹿ぁー!! 何で真っ先に勇者が死んじゃうのさ! あたしがどんなに大変だったか教えてあげようか!」
 ポカポカと叩く。ここはロマリアの教会。
「たく、何で男はこうも頼りないのよ」
 次々にカンダタの斧の餌食にされる中。このパーティの要のアキドは果敢にも立ち向かったと言う。
 何とアキドはたった一人でカンダタとの戦闘に勝利を納めたと言う。その証拠に頭に巻かれたターバンの上から被っているそれは、まさしく金の冠。なんてこったい、これでは勇者と言う名前が形無しである。

「手柄、勇者君にあげてもいいよ。その代わり…」
 悪魔の囁き、己は抗うことなくその誘惑に負けた。


 その結果…。
「だー何なんだよ。この国は!!」
 王冠を渡しに行ったら、王になれと拒否権なしに王にさせられた。挙動不審に右往左往して居るにもかかわらず、皆が皆、普通に己を王と見て接する事に度肝を抜いた。
外に出れないし、アキド達は爆笑するだけだし!
漸く、宿屋の地下にあるモンスター格闘場と言う名の娯楽施設で、賭け事をして居る本来の王を発見。直ぐ様変われと若干脅し気味に訴えたら、元に鞘に収まった。
まさか、前王のどうでも良い話を身を以て体験する羽目になるとは思わなかった。
 王になるって言う魅力はある、魔王退治なんてしなくてもいい身分になったんだ。しかし、己は【勇者オルテガの息子】だから、父の使命を受け継がなくてはいけない。

「お疲れさーん。中々王様姿は見物だったよ」
「完全に服に着せられている感じでしたねー」
「お帰り、情報は集まったかのう?」

 気楽な出迎えに溜息が出る。しかし、気を取り直して、次なる目的地を告げる。
「北に行く。助けてくれって言われたしな」
 カザーブの村の更に北にノアニールと言う村があるらしい。カザーブの村の位置を教えてくれた女性が王の時の己に懇願したのだ。あの通り役に立たなさそうな現王より、自分が行って現状を確かめようと思った。
「カンダタごときに仲良く棺桶に入ってたくせに」
「いやー。戦闘は苦手です。アキドちゃんとの銭湯なら先頭に立って…」
「うるせぇー! つか、お前カンダタ逃してたんだな」
 囚人の情報を聞いて、そう言えば王冠を取り戻しただけだと言うことに気づく。つか、あの囚人どこからそんな情報を仕入れて来るんだ? 侮れん。
「えっ!? か弱き少女にカンダタを縛り上げろと!?」
「今、私普通に縛り上げられてます。助けて下さい」
 そうだったな。か弱気乙女かどうかは横において、あの屈強相手じゃ、確かに一人じゃどうしようもないよな。
「あー。悪かった」
 ぷんぷんと言う可愛いジェスチャー付きで言い包められる。さすが商人、口では勝てない。

「して、これからどうするのじゃ? どうやら一筋縄ではいかん場所じゃぞ」
 ここの酒場で聞いたらしい人々が眠っている町。彼女の言うノアニールの村と同じかは定かではないが方角が一緒である用心しながら前に進むのみ。
「直ぐに行く。人助けしながら、バラモスへの道を探る」
 一度、ルーラでカザーブに飛び、準備してから北へ向かおう。

 勇者と言う職業は主に魔王バラモス…この世界を恐怖に貶めている存在の討伐であるが、困っている人々を助けると言う意味も含まれている。最も親父がどうやって道を切り開いたか教えてくれていたら、ここまで苦労しなかったかもしれない。

「うむ」
「こっちのベッドの方が柔らかいのになー。しょうがないけど」
 皆の同意が得られたので、屋根のない場所に移動し、ルーラの呪文を唱える。
「今、目の前で困っている人を助けて下さい! まだ棺桶に入ってないのに引きずられています! あぁぁー…」
「ルーラ!」

 カザーブの村で鉄の盾(700G)を二つ購入。己とアキドが装備。ピエロは相変わらず装備できないと…。うん。大分所持金に余裕が出てきたな。戦いはボチボチ苦戦するギリギリと言う感じである。と言うか苦戦する最大の原因は、回復役がいないと言うことだ。
いや分かってはいたが、己のホイミだけだと魔力が足りない。未だにルーラを二回唱えることができない魔力…全てホイミに回しても全然足りない!
カンダタ戦の前だってケチって回復怠ったからこその醜態。己の判断ミスだと言われたらそれまでである。

「てか、酷いですよ。とことん無視しないでもいいじゃないですか。私のメイクバッチリな顔にも哀愁が漂いますよ」
 薬草も買い準備万端で村を出る頃に、漸く解放されたピエロは、土埃を払いながら眉をハの字にして、水色の涙を書き足している。結構余裕じゃねーか。
「そう言うところだ」
「なんか最近戦わずに応援してることあるよね?」
 目の前で剣を振り回して、襲い来る【キズモ】と言う、灰色の雲みたいなフワフワしているモンスターを一刀両断して、アキドは言う。彼女…また一段と強くなったな。まぁ【キズモ】は吐き出す甘い息さえ注意してればいいから楽だが。
「そ、そんなことないですよー?」
「まさかビビってとか無いよな?」
 何で、アキドの追求で吃るんだよと、ジト目で見ると、とんでも無いと否定しつつ視線をそらす。
「その方が気合いとか入りませんか?」
「ううん、全くこれっぽっちも」
 アキドと二人で互いに見て、首を横に振る。渾身の声援なのにと崩れるピエロ。いや、ショック受けるのそこかよ。
「どう言うことだよ」
「まあ、遊び人の性ってやつですよ」
 ウインクして反省もなにも無い彼に殴りたい衝動に駆られたが、ここは外、モンスターがうじゃうじゃいる危険地域。
「来たぞ!」
 ゼトの声で気合いを入れ直す。命拾いしたな。

 さて、モンスターに四苦八苦しつつも順調に進んで、目的のノアニールの村(仮)に着いた。なぜ(仮)かと言うと、皆が皆眠りこけているから村の情報を聞くことができないのである。寝てどれぐらいの月日が経っているのか、舗装された道の脇の草木は伸び放題である。逞しいもので、ひび割れた煉瓦の隙間からも力強く生えている雑草。
住んでいる人達は宿屋も道具屋も普通の民家も多種多様な姿で寝ている。と言うかほぼ立ったままだ。時が止まっているかのように、静かに目を閉じ佇んでいる。いやまぁ、『ぐー』とか寝息は聞こえるので完全に止まっているわけでは無いようだが。
「あの奥の家が最後だね。あんまり良いのなかったねー」
 情報収集から何時の間にかお宝探しに目的が変わっている気がするが、気にしたら負けな気がする。
ゼトが持っている毒針を黙認したのだからもう何も言えない。盗賊勇者団に逆戻りである。あぁ、せめて『お助け勇者団』に成りたかった。
「あれ? あの家だけ少し綺麗ですね」
 近くの道で眠っている子どもの横を通り過ぎると全貌が見えて来た。草は生い茂っているが獣道つまり、人が最近通った跡があるのである。ノックすると一人の老人が出て来た。久しぶりの客だったのか、この惨状の訳を尋ねると涙ながらに語る。
「どうかエルフ達に夢見るルビーを返してやってくだされ! でなければ村にかけられた呪いが解けませぬのじゃ」
「何があったよ?」
「詳しくは知らぬ。ただ、これはエルフの仕業なのじゃ」
 ほんの数日、他の場所に外出していて戻って来たらこの状態であった。なぜこの様な事になったのかと、東奔西走情報を集めたどり着いた要因はエルフが眠りを引き起こしたということ。その原因が夢見るルビーの紛失による怒りであること。これ以上のことは分からず、ルビーのありかも不明で途方にくれていると言う。
老人一人ではこれが限界だったと、外で風が吹こうが、雨に打たれようがその場に動かすことができず眠り続ける孫の姿は堪える。助けてくだされと懇願される。

 勇者Lv.11、悲しみに囚われる。

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