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竜の眠る地

DQ主達の記録

伝説の勇者



「落ち着いたか?」
 混乱したような様子のアレフが感情の整理を終えるのを待って、ロトの称号を与えられし者は声をかけた。
「すまない。俺にとって勇者ロトは遥か昔の存在だったものでな」
「近い方のご先祖と遠い方のご先祖が目の前にいるって、すごいな!」
 アレフは溜め息をつきつつ、ありえない状況をグッと飲み込む。
その横で逆にあっさり受け入れ、会えることを純粋に喜んでいるローレとのギャップにロトは苦笑する。
「わかったことは、皆、違う世界から…いや、同じ世界の違う時間軸からここへ飛ばされたということだ」
 ロトの称号を得て有名になったことは自覚していた。
しかし、まさか伝説と化しているとはと苦笑しながら、状況を整理する。
実際、異世界に飛ばされるのは初めてではない。

「一応、確認しておこうか。年代は違えどアレフガルドから来たそうだな?」
「あぁ、間違いない」
「ちょっと違うがその土地はあるぞ」
 ローレは厳密には違う大陸から来たと言うが、世界としては共通しているため、問題ではない。
正確に言うとアレフガルドという名称は広義と狭義で意味合いが違うのだが、ややこしくなるだけと言える。
それらを説明するだけの知識がローレにはない。

「そうか」
 自分は帰れなかったのかと溜め息をつく。
いや、伝説となるのだから、帰って姿を消したとも取れるかもしれないが、既にきちんと記録には残ってないほどの過去だという。
残していないとも言えるかもしれない。
様々な思考が入り乱れるが、今はそこを気にしている場合ではない。

「ご先祖はどうしてここに来たのですか?」
「敬語はいい。今のオレはそんな価値のある者じゃない」
 やめてくれと遮って、相手——アレフに了承を得る。呼び名も普通でいいがそれは譲れないそうなので諦める。
「正確には分からない、旅の扉を使って来たらここに居た。一方通行だったようで、現在は戻れない」
 アレフガルドから気ままな旅に出た。
そして、地下へ続く洞窟へ足を踏み入れると、まるで自分をそこで待っていたかのように現れた異世界への扉。
これは現実からの一種の逃げかもしれないそう思えなくもない。
誘われるようにその扉へ入ったのは確かだ。

「ここはどこなんだ?」
 それぞれの事情はわかったが、この世界のことは何もわかっていないのと同じである。
「どこだろうな。土地柄や出てくるモンスターは馴染みのあるものが多いが…」
 ローレの言葉にロトもそう返す。
そう、よく似ているにもかかわらず、ここがアレフガルドではないことはわかった。あえて言うならば空気が違うというべきか。
「街を探すしかないな」
 この土地は豊かそうなのに道らしい道も街どころか村しいてはこの土地の人にさえ会っていないという状況である。
そう、それが余計に不気味な空間となっている。
「向こうに怪しげな建物は見た。丁度、この神殿の真南だ」
 そこに人が居るのか分からないが、寂れた神殿に長くいる理由もないので、ロトの言葉で一行は歩き出す。


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「ご先祖が何を思っているかはわからないが、俺の時代、ご先祖のことは伝説となっているくらい昔のことだ」
 モンスターを倒しつつ、目的に歩きながら、ロトが頻りに気にするので簡単に説明する。
「だが、お前はその血を引いているとわかったんだろう?」
「それは、この装備だ。この装備は特殊で何故か選ばれし者にしか装備ができないらしい」
 ロトの装備と言われ、伝えられている。
今は剣しか持っていないのでそれをかかげ見せる。
「オレはそんなつもりはなかったんだがな」
 自身が持っている剣の形は少し違うも、伝承されているのは間違いないだろう。どこか、くすぐったい思いである。
「ご先祖が何かしたわけではないのか」
 やっとの思いで探し当て、装備できたときは少し嬉しかったが、意図的にそうしたわけではなかったのか。
初耳のロトに、史実とは異なるのだろうとアレフは苦笑を漏らす。
翳す両刃の剣はサビ知らずの煌めきがある。
鍔の部分が特徴的で、鳥をかたどった紋章で、その中央には赤い宝石があしらわれている。
「いや、確かに特殊な加工で作られた魔王も恐れる剣であることは確かだよ」
 一度失われたものを取り戻したのは確かだ。
「そうだったのか!」
 知らなかったと互いに様々な思いを持ちながら剣を見る中。
双方の剣を見ながら驚く声を出すローレ。
「お前も持っていないのか?」
 アレフが聞き返す、自分の子孫なら、残していると思っていたが、そうではないのだろうか。
「あまり強くないから預けてるぞ」
 今はこれを装備していると、稲妻をあしらった剣を見せる。
切れ味が鋭そうな片刃の剣。
アレフはそう言えば、ローレが戦っているときロトの剣ではなく、その剣だったなと思い出す。
だから、子孫だと言われるまで気付けなかったのかと納得しかけ、最強の武器が強くないと一刀両断されたのがとても複雑に思う。
「マジか…ははっ」
 ロトも乾いた笑しか出てこなかったようで、時代の流れというのは全くもって残酷だ。
ローレだけは自己の発言がそこまでダメージを与えてるとは知らず、一度首を傾げた後、煌めく剣を振り回し襲ってきたモンスターを撃退する。
伝説の武器が稲妻の剣に劣るという事実から、ロトが立ち直るにはしばし時間がかかるかもしれない。
気持ちはわかると、ロトの肩にアレフは無言で静かに手を置く。


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 目的地に到着した一行は期待を裏切られることになる。
「古民家…いや宿屋か?」
 アレフが呟いたように目の前には一軒の大きめの建物。
三階建て…いや屋根裏付きの二階建という方がしっくりくる。
声をかけるも人はおらず、荒れた様子もない。
家具や日用品がすべて揃っているにもかかわらず生活感がまるで感じられない。
不気味な建物である。
「ここになんか書いてあるぞ!」
 入り口横の看板を指し、ローレが二人を呼ぶ。
「『ご自由にお使いください』どういうことだ?」
 アレフが疑問を浮かべるも、誰もその答えを持っておらず、双方顔を見合う。
書いてある通りなら、自由に使っていいってこととなる。
簡潔に書かれすぎて、飲み込めない。
飲み込めないが、この先何もわからない状況であるため、安全が確保されているこの場所はとてもありがたいのは事実である。

「そう書いてるのなら、拠点として使わせてもらおうぜ。もしかしたら、ここにはもう人がいないのかもしれねーしな」
 物色していたロトが個室を見つけ、ここ使うぜと中へ入って行く。
「わかったんだぞ!」
 素直に受け取り、ローレもその隣の個室を占拠する。

「…順応が早くないか」
 先ほどから、ややおいてかれ気味と成っているアレフは個々にくつろぎ出す二人に苦笑を漏らす。


 夜も耽り、空腹を覚えた頃。
「だから、もっと慎重になるべきだと言っているんだ」
 順応が早いのは見習うべきだが、これは譲れないと、意見を言う。
アレフは単独で丹念に調べて、安全が確保されているのは納得した。
しかし知らない食材があり、調理法もわからないのなら、食の安全は保障できない。
「いやいや、台所にあったんだから普通に食べれるもんだって!」
 焼くなり煮るなりすればどうにかなると、ロトも負けじと反論する。
「肉が食べたいんだぞ!」
 二人の討論を余所に自分が食べたいものを主張する。
ローレにとって出されたものは迷わず食う。
つまり、食べれられれば何だっていいのだ。
「ローレ、仮にも王子なんじゃないのか?」
「そうだぞ!」
 ローレに元気よく返事を返され力が抜ける。
アレフが思い描いていた自分の国を作ると言う未来は無事に果たしているようだが、大丈夫なんだろうかと、不安になる。
ロトも苦笑いしか返せないでいる。
ローレの無邪気さに議論していたことが馬鹿らしいくなってきたとき、大きな音で扉が叩かれる。

「夜だし、あまり大きな音を立てないほうがいいよ」
「いいじゃん! ここに住んでそうな人をようやく見つけたんだからさ!」
「お前は少しは疑えっての!」

 この短い会話から、同種の匂いを嗅ぎ取る。解決する糸口は見つからないが、漏れてくる声に三人は扉を開け歓迎する。



【伝説の勇者】

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