選ばれし者
翌朝、皆が皆、混乱する中それぞれ思い思いに夜を明かし、朝食も兼ねて再びリビングに集まった。
「ナンバリングされた者達か」
皆が戸惑っている中、一人そう呟いた。
『皆様は聖なる使命により、導かれてここにいます』と言われてもどうすれば良いかわからないまま、精霊は消えた。
「選ばれし者とも言っていましたね。僕自身はピンときませんが」
8番目という肩書きを得たエイトは腕を組み腑に落ちない顔をする。
「ボクも勇者とか選ばれし者って言われると違うよってなるなー」
好奇心から始めた冒険だと、今でも思っている。そんな彼は7番目と言われたアルス。
「確かにそうだ。私もそこは不思議に思う。勇者なら私の息子が選ばれし者になるはずだ」
5番目と言われたアベルはそう切り返す。
子持ちでさらにそれが勇者なのかっと、どことなく響めく声が聞こえたが、本題から逸れるため、頷く動作で留める。
「何を持ってっと言われちゃいますと、ピンと来ませんが、先ほどの導きの言葉を借りますと【このよく似た世界をそれぞれ救った偉大なチームのリーダー】ってことでしょうか?」
導きがあるのならそれに従うまでという姿勢を崩すことなく、このメンバーでは一番最後の9番目を与えられし、ナイン。
手を組み祈りを捧げる。
世界は違えど世界を平和に導く上の方の逢瀬のままに動く、それがナインの使命。
「好きで救ったわけじゃねーけどな」
消えるように舌打ちをしながら言うのは、4番目と言われたソロ。
皆がこの宿舎に集められてから、ずっと機嫌が悪い。
ソロはもともと指図するモノや、無能で威張っているモノ達が大嫌いである。
精霊だか、神だか知らないが胸糞悪いと言う類だろう。
「先祖がいるのになぜ俺が1番目かということも、腑に落ちないが、取り敢えず元の世界に戻るには、言われたことに従う他ないだろう」
アレフ自身は最後まで一人旅だったから、リーダーも何もない。
良いか悪いか最初の番号を得たことに眉を顰めるしかない。
「そのオレは3番目だったな。時系列とは関係ないってことだ」
伝説のロトの称号を与えられし勇者。
アレフとローレの先祖に当たるらしい。
現在、同軸に存在してしまっているので、違和感しかない。
「えっと、おれは2番目だな! ところで何をしたらいいんだ?」
自分の位置を確認しつつ、現状は従うしかないというところまでは理解できたが、今後のことは理解できなかったローレは首をかしげる。
「えっと、精霊の導きから考えるに再度この世界を救うかすれば良いのでしょうか?」
ナインは精霊の言葉を思い出しながら、今後について提案する。
「いや、この世界を救うという話ではなかったと思うよ。あれは…ご褒美と言う意味合いが強いと私は感じたよ」
アベルの言葉にニュアンスの違いだろうか、異なる解釈が出てきて瞬きする。
そんなアベルの言葉に眉を顰め、異議を唱えたのはソロ。
「ご褒美だと? 俺には、厄介なことを押し付けたようにしか思えなかったね」
多種多様な解釈ができる程に、精霊の言葉は抽象的であった。
『各々の世界を救い平和をもたらした皆様に、異なる世界を感じて欲しく、ここに呼びました。聖なる神殿で願いを届けてください』
「…真意は不明ですが、神殿が次の目的地でしょうね。地図がないので詳細は不明ですが…」
エイトはまとめるように呟く。
本当にとんでもないことになった。
「神殿は、おそらくあの場所のことだろうという検討はついている。しかしこの人数だと多いな、特色を吟味して三チームぐらいに分かれないか?」
アレフの言葉に賛否両論が飛ぶ。
人数は今までの経験で慣れている人もいたし、少人数でしか旅をしたこともない者もいる。
最終的に人数に関して、馬車がないと動きにくいという結論になり、戦闘時は別れて、最終的に合流すると言うことになった。
「おっしゃ行くか!」
耳は傾けているが、皆がまとめているときには話に加わらずごろりと横になっていたレック。
レックは6番目と言われていたが、特に意識していなかった。
結論が出ない会議は苦手で、終幕した開放感に勢いよく立ち上がり、笑いかける。
それに合わせて、皆が立ち上がり前に進む意思を見せた。
【選ばれし者】
序章それぞれのはじまり 完
PR