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竜の眠る地

DQ主達の記録

魔物使い



「…………此処は何処だ?」
 手ごろな岩山に腰を掛けて首を傾げる。
岩肌が多く、凹凸が激しいため、周囲がよく見えない。
仕方がないので、高いところまでロッククライミングのごとく登ってみたのは良いが、見渡す限りの岩山だらけ、奥に見えるのは巨大な山。
反対側は見にくく曖昧だが、隙間からキラキラ光る青い海が見えることから、断崖絶壁かもしれない。

「…参ったな」

 久しぶりの長期休暇で羽を伸ばすつもりが気づいたら、この有様だ。
夢の世界かと思いもしたが、それはとうに滅んでいる。
いや、正確にはあるだろうが、青年の力ではもう手を伸ばすことができない場所になっている。
もしかしたら、何らかの拍子にまだ青年の知らない別の世界に迷い込んでしまったのかもしれない。
闇の世界があるのだからあり得なくはない。
そういうことにしておこうと、青年——レックは結論を出した。

 オレンジ色の一枚布を筒状にしたそれを左肩から斜めがけしたインナーに、青色の裾の長めのベスト。
それれらをベルトで固定している独特のスタイル。
身分を隠したラフな格好は、昔懐かしの旅の服である。
青い髪を逆立てて、耳にいくつかのピアスをしているが、あまりチャラさは見受けられない。

 暫く眉を顰め首を傾げていたが、迷っても仕方がないと表情を緩める。
取りあえず、海側は崖でどうしようもない 。
消去法で残った山を越えますかっと、意気揚々と岩から飛び降りて、登った坂を滑り降りる。


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「で、君に出会ったわけだが、何をしているんだ?」

 中腹に差し掛かったところで、奇妙な団体に出会う。
紫を基調としたターバンを巻いていて同じ色のマントを羽織っている。
青年というには落ち着いているが、顔つきはまだ若い。
困ったように微笑んでいる姿は、まぁいって二十代前半だろう。
それはともかくとして、周囲に群がっているのはモンスターだ。
青い髪の青年は攻撃しようとして殺気がないモンスターに対して戸惑いを覚える。

「……いやぁ、どう表現したらいいだろうね。懐かれてしまったというべきかな」
「モンスターを仲間にか、肉でも配ったのか?」
「そう言う訳でもないんだけどね」
 苦笑いを蓄え、どう説明しようって悩みながらもそれ以上のことができず、やはり笑うしかない。

「悪の手下って言う訳でもなさそうだな。というわけで、自己紹介ぐらいするか!」
 人は見た目ではわからないというが、今現状では攻撃をされるということはないだろう。
思考を切り替え、ポンと手を叩き元気よく挨拶をする。

「オレはレック。とある国の王子様だー! って言っても信じてもらえないので、一戦士ということでよろしくな!」
 状況の切り替わりに、付いていけなくて、あっけにとられている相手に手を差し出す。
「えっと、そうだな。私は…魔物使いかな。名前は…アベルだ。よろしく」
 モンスターに揉みくちゃにされていたが、謝りながら立ち上がり、改めて手を握り返す。
握りあって、お互いを確かめ合う。
互いの自己紹介で、二人の置かれている状況をおおよその検討付ける。
その後、改めて周囲を見渡すも、状況が変わっているわけではない。

「あんたは、どうやってここまで来た? ここのことを知っているか?」
「…難しい質問だね。残念ながら私は知らない。ここがどこかと言うことを。君もその質問をするということは…」
「あぁ、残念ながら、気付いたらこの岩肌に立っていたって言う、恐ろしい現状だったわけ」

 あぁ、やっぱりという思いが互いに見え隠れする。
ここの住人であれば、まったくもって早い話であったが、その望みは薄そうだと互いに根拠がない第六感が告げている。
敵ではないという認識は互いにできたところで、共に行くことになった。

「私の知っている世界とよく似た知らない世界。一体何が始まるというのだろう」
「なーんにも始まってほしくないね」
「まったくだ」


xxxxx


「山を越えてきたのはいいが…。参ったねこれは…」
 広がる大地にレックはポリポリと頬を掻く。これだけ広いと街の一つや二つあっても良いだろうに、見渡す限りの平原で、視界に留まるところに何も見受けられなかった。
「あそこに建物が見えるよ」
 アベルの声とキーキーと言う音が聞こえ振り返ると嬉しそうに弾むドラキーがいた。
「お? 本当だ! ナイス!」
 撫でてやると、嬉しそうに宙を舞った。
人間の言葉がわかるようだ。
アベルという男は本当に不思議な性質を持っているなと思う。
「モンスターの気持ちとかわかんの?」
 腕を頭で組んで歩きもって尋ねる。
連れて歩いているモンスター懐き方が尋常じゃないように感じる。
「全てはわからないよ。何となく、私にはモンスターを引き寄せる何かがあるらしい。実の所、よくわかっていないのだけれどね」
 全くもって曖昧な回答を得た。
モンスターの頭が殺られてからは、唐突に凶暴化して襲い狂うという事が少なくなった。
その影響で今、ペットとして買いたいという道楽が増えているらしいことは知っていたが、懐くことが稀で大金積んでも懐かなければ消えていく、そんなイメージであった。
「引き寄せるって、ある意味危険だな」
「ちゃんと、手なづけて、賢さを上げると言うことを聞いてくれるよ」
 撫でるように時折擦り寄って来るモンスターの頭に手を乗せ、淡い光が灯る。
すぐに満足したモンスターは主人を護ると言うように周りを飛び回っている。
一匹や二匹じゃない五匹全員が同じ動作で、従えていると言っても過言ではない軍勢である。
「大したもんだぜ」
 事実、今まで襲い来るモンスターはそのモンスター達により追い払われていることが多く、レック自身が直接手を下すのは稀であった。
楽は楽だ。この先休息できる保証がないので有り難い。
「取り敢えず、あの小屋のようなところで、何か、わかれば良いんだけどな」
 アベルもそうだねと頷き、遠くを見る。
日暮れが迫っているのか、徐々に空が茜色に染まりつつある。
夜になるとやっかいになる。
夜行性のモンスターは凶暴であることが多い。
おいそれとやられるわけではないが、出来るなら避けたいと思う。


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 結果的に言えば、人はいたが利益のある情報はなかった、と言えよう。
それより、この嫌悪な雰囲気をどうにかしてもらえないだろうか、ぼんやりレックは思った。
「信用できねー。魔物を従えている男が良き人間なわけねーだろ!」
 レックは物事を深く考えるのは苦手だ。
どちらかと言えば、楽しいことが好きだ。
やりたい事を提案して、夢と希望を口にして、皆に呆れられながらも根拠を語る。
皆も計画を如何にして実行に移せるか、どう改善すれば可能かを呆れながらも話し合ってくれて、レックの夢に付き合ってくれる。

「なぁ、そこは拘ることか?」
「重要事項だろ」
 切先を魔物使いのアベルに向けたまま睨む緑髪の青年。
白いインナーに緑のトップスを茶色のベルトで固定し、白いズボンに茶色のブーツ、旅人が普段に着ているような一般的な出で立ちであった。
だが、鋭い目つきには殺気が入り混じり、仲間にしていたモンスター達が逃げ出すほどである。
正確には殺される前にアベルが逃したと言ってもいいだろう。
「………」
 先程から何も言わず、少し困ったように眉を垂れつつ、手を挙げたままである。
言い訳をするわけでもない、自分が特殊であることも知っている。
価値観の違いと言えば、あっさり片が付くかもしれないが、この場合、今後を考えるとあまり宜しくないのではないだろうか。
「なぁ、お前がなんでこの小屋に居たかぐらい教えてくれてもいいだろー」
 レックの言葉に視線を寄越すが、直ぐにアベルを睨みつける。
返事次第では何時でも切り捨てると言われているようだ。

「私は何故自分がこのような能力を持っているか、わからない」
 幾つかの仮説は立てられるが立証する術はない。
アベルはゆっくりと語る。

「君は伝説の勇者じゃないかな、その剣が装備できることがその理由だ。それにその冠も天空の兜だろ?」
 その言葉に、青年は目を見開く。
「何故それを?」
「伝承を知っているからだ。私の息子もその勇者の一人だよ」
 飲み込めず混乱している青年を余所にレックは改めて、青年の装備を見る。
独特の刃先に鍔は緑色の龍の形を型取り翼の部分が美しい。
(どこかで見たことがある)と首をかしげてハッとする。

「それ、俺の持ってるラミアスの剣(改々)と同じじゃねーか!」
 レックはゴソゴソと袋からその剣を取り出し見せる。
初めは紫で地味だった剣だが、鍛冶屋により、おしゃれさに気合を入れて鍛えて貰ったから、会心の出来だと今でも思っている。
「「…………」」
 青年の剣と再び見比べたアベルと青年は、偶然もあるんだなと納得しかけているレックを余所に絶句する。
世界に無二の存在の剣が今目の前に二つあるという事実。
「少し混乱して来た」
「私も…」
 どことなくフラフラしそうな二人だが、先程までの険悪な雰囲気はなくなっている。
ならばと、レックは手を叩き。
「じゃぁ、情報を整理するためにもさ、小屋に入ろうぜ! 聞きたいこともあるしな!」
 剣をしまい意気揚々と小屋へ足を運んだ。



【魔物使い】

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