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竜の眠る地

DQ主達の記録

井戸の中



「つまりは、俺らは時代の違う同じ世界から来たってか?」
 ランプの光を中央に置き、その小さなテーブルを囲みながら、顔を付き合わして状況を整理する。
「天空の剣が無二の存在だと仮定した場合。二つ以上ある理由がそれしか考えられない」
 どちらが非現実的かと言われると『実は二本ありました』と言われる方が納得できる。
納得できるが、三人がこの世界にいる時点で、青年が持っていた常識を超えてしまっているため、何が起こってもあり得るとしか言えない。
「魔界と同じように別の空間に飛ばされたと言う考えが正しいと私は考えているよ」
「………」
 眉を顰めながら考え込む青年——ソロと名乗った。
おいそれと信じていいものか考えあぐねいている。

「世界は無数にあるんだから、なんでもありじゃね?」
 その横にゴトンと果物らしきものを置いて、レックも椅子に座る。
「ちゃんとした小屋なのに食べ物は全くなかった。生活感がまるでない。これは期待できないな」
 手を上げて疲れたと溜息をつく。
置いた果物は、先程の山を下るときに目についたものを取っておいたものだ。
自然豊かで野生に帰るのなら苦労しなさそうだ。
「それは困ったね」
 空腹は満たさねばならない。
アベルはマントで拭いて果実に齧りつく。
不幸中の幸いは、食べ物は己の世界にあるものとあまり変わらないということだろう。
何もかも違っていたら、中毒死か餓死するしかない。
「お前ら逞しいな」
 右も左もわからず謎な世界に飛ばされたと言うのに希望も失わず、自然と生きるを選択している。
「いろいろ経験したからね」
 困ったように呟くアベル。
己の人生は一言では語り尽くせない。
「オレはさ、田舎育ちで好き嫌いしてたら生きていけねーの」
 レックもためらいなく果実に齧りつく。
「あれ? 王子じゃないの?」
 自己紹介のときにそう漏らしていたようなとアベルは尋ね。
「人生いろいろあるんだ。嘘は言ってないぜ」
 ニシシっと言うように、信じてくれてありがとうと笑う。
先ほどの話ではちょっと前に出会っただけのはずなのに溶け込んでいる二人をソロは眩しく思う。

「俺も田舎育ちのはずなのにな」
 人生経験も少なくないはずだ。
にも関わらず、二人のような考えを持つことは出来ない。
そう、守られし存在だったのだ。
「ソロ君はどうしてこの世界に?」
 アベルの言葉に言葉を詰まらす。
あの影は幻だったのだろうか。
やっと会えたそう思っているのは間違いなのだろうか。
「わからん。気付いたらここにいた」
 ソロの眉間の皺がより濃くなっているが、敢えて二人は何も言わなかった。
警戒心の強いソロが知り合ったばかりの人に込み入った話をすることはできないだろう。
「同じようなものだね。ここに来て何か見つけたことは?」
「この小屋だけだな。中はある程度散策したが、開かない扉が一つあったぐらいだぜ」
 そんなのあったのかと驚くもそこの奥に地下への階段があると指をさす。
わかりにくい場所に隠された鍵付きの部屋。
試しに行くべきだろう。
「そうか、明日そこになにも何もなければ、外の場所の散策かな」
 今動かないのかと驚くソロに、アベルは首を横に振る。
夜は動かない方がいい、視界が悪いのとモンスターが凶暴化するのと…。
「疲れて寝ているしね」
「!? いつの間に…俺が悪い奴だったらどーすんだよ」
 粗方、果物を食べて満足したのか数個残して机に俯し、腕を枕に寝ているレック。
レックの自由奔放さに一々裏があるかもしれないとか探るのが馬鹿らしさを感じて、溜息と共にどこか警戒していた肩の力が抜ける。


xxxxx


「…何で叩き起こされなきゃならないんだ」
 不機嫌にまだ寝足りないと欠伸をしつつ、起こした相手を睨む。
「次に行く当てができたんだよ。置いてかずに起こしてやってんだから感謝して欲しいぜ」
 睨まれた相手は、臆することなく正当性を述べる。
「行く当てがあっても夜だぞ。夜は危険だろ」
 時間を確認すべく、眠気眼でレックは辺りを見渡す。
部屋はランプの光で明るいが、外はまだ暗く、月明かりぐらいしか頼りになるものはない。

「行くのは外じゃねーよ。こっちだ」
 ソロはいい加減、押し問答は飽きたと親指で背後を指差す。
その背後に分かりにくいが地下へ下りる階段があった。
「地下?」
「あぁ、百聞は一見に如かずだ。ついてこい」
 ソロはレックが寝ている間に、アベルと粗方話し合い、開かない扉を開けてみることを選択した。
生憎、穴に合う鍵を持っていなかったので、物理的破壊を試みると、劣化していたためか、数回蹴りを入れるだけで、難なく扉が開いた。
その扉の奥は小さな部屋になっており、そこには…。

「何だこれ? 井戸か?」
 石を積み上げた円形のものが姿を表す。
中を覗くも暗がりで良く見えない。
ただ深さはありそうで、石を投げるも反応は鈍い。
水はなさそうである。
これ以上は確かめるにしても降りるしかないだろう。
「この井戸には微かに魔力というべきか、不思議な力を感じてね」
「何が出てくるかわかんねーけど、試す価値はあるだろうぜ」
 アベルとソロの言葉に成る程と、もう一度覗き込む。
暗い井戸には微かな青い光が見えなくもない、それすなわち世界に戻る旅の扉。
思考が一直線に繋がったレックは、二人の腕を引き、井戸に飛び降りる。
「おい、ちょっ待て!!」
「うわ。飛び降りるの!?」
 何も覚悟せず引かれたため、悲鳴のように叫び井戸へと落下する。
「大丈夫! 【いどまねき】は居なかったぜ!」
「そういう意味じゃねー!!」
 ソロはぐにゃりと歪む視界で能天気に返すレックの言葉に全力で叫ぶことしか出来なかった。


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「いきなり飛び込んでんじゃねーよ」
 視界がクリアとなった途端にソロはレックにげんこつを食らわした。
慌ててアベルは腕を取り抑える。
「イッテー。いいじゃん。知っている気配だったから、善は急げって思ったんだよ」
 結構痛かったのか、涙目になりつつソロを睨む。
「俺らにそれを説明するのが先だろーが!」
「まぁまぁ結果的に無事だったのだから、良かったんじゃないかな」
 このままだと一方的に剣を振り乱しかねないので、アベルはどうどうと宥める。
「…たく。ここはどこだ?」
 怒りを抑えつつ、レックを一睨みしてから、辺りを見渡す。
こちらも夜らしく、辺りは暗い。
後ろ井戸を除くと前方に何かが見える。
漏れている光や空との境の黒い輪郭は建物らしき形をしている。

「人が居そうだね」
 建物から漏れる人工の光が人がいることを物語っている。
今までの広大な自然の中で歩いてきたからこそ、この光は人が人たる所以だと思ってしまうほど嬉しさがあった。
「やっとこの世界の住人に会えるじゃん!」
 立ち上がり、建物に向かって駈け出す。
「おい! 本当に無警戒だなー、たくっ!」
 慌てて追いかける後ろを、アベルも(案外ソロは世話焼きかもしれないな)と思いながらついて行く。
こちらの時刻も夜、魔物の凶暴化が危ぶまれたが、幸い手に余るほどの強い奴は出現せず、レックの特攻に二人が合わせることで簡単に対処できた。
「猪突猛進で天真爛漫な人の対応って実は慣れている?」
 アベルが冗談混じりで率直な感想を述べる。それにレックが取りこぼした敵を仕留めつつ、ソロはニヤリと笑う。
「俺の思い通りにならない味方の相手をずっとしてきたからな」
 自己がどう動けば彼奴らに合わせられるか、最善の道は模索してきた。
理不尽な思いするのは慣れている。
「何となくわかるよ。でも根気よく育てれば分かってくれるんだ」
 アベルも同意しつつ、ソロとの相違を口に出す。
「…どう言う」
「おーい!」
 ソロもアベルの真意を確かめようと思ったが、遠くで二人を呼ぶレックに急かされ、諦めて後を追う。

「夜だし、あまり大きな音を立てないほうがいいよ」
 豪快にノックするレックにアベルは一応注意する。
「いいじゃん! ここに住んでそうな人をようやく見つけたんだからさ!」
「お前は少しは疑えっての!」
 言い合っていると扉が開かれる。そこには三人が顔を覗かせている。
「ようこそ、異世界の住人が集まる宿舎へ」
 中からはとてつもなく皮肉った返しが帰ってきた。
その言葉で、彼らもまた同じようにこの世界に来た者だと知る。

「わー! 結構な人ですよ」
「『人』じゃないかもよ」
「ですが、例の者達のようですね」

 この集まった六人以外の声が響く。
振り返った先には、素朴な顔の三人が笑みをたたえていた。



【井戸の中】


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